バーナード・チョウリー『イスタンブールに来ちゃったの』

 大阪アジアン映画祭、14本目はシネ・ヌーヴォでマレーシアのバーナード・チョウリー『イスタンブールに来ちゃったの』。イスタンブール・ロケの美しい、ロマンティック・コメディーの王道をゆく作品だ。主演のリサ・スリハニはモデルでもあるそうだが、ファッション誌のグラビアから抜け出してきたようなコーディネートの数々も楽しい。カラータイツはマレーシアの気候では履けないだろうが、コサージュ付ヘッドドレスはスカーフをかぶらない女性の間では流行るのではないだろうか。この映画のファッションブックがあったら欲しいくらいだ。
 物語は、トルコに留学した恋人アザッド(トモ)を追いかけて、短期の語学留学にやってきたヒロイン・ダイアン(リサ・スリハニ)がマレーシア人の男性画家(ベト・クサイリー)とルームシェアをするはめになってしまい…というドタバタ劇。
 卒業まで待っていられないので、何とかプロポーズさせようという計画なのだが、なぜか彼は冷たく、男ばかりの部屋に泊められないから自分でアパートを探せ、と突き放す。しょげかえるダイアンだが、「ちょっとどうなってんの!」とその状況をコミカルに日記にしてブログにアップ、めげずにアパート探しに街へ出る。紆余曲折の果てに、近所のトルコ人が紹介してくれたアパートに入居したものの、シェアメイトはいないと聞かされていたのになぜか男が住んでいる!しかもなぜか偶然にも相手はマレーシア人というところができすぎだが、そこは“無巧不成書”。
 隣人とのトラブルをどう解決するか、というテーマに関してはマレーシア社会の文脈で色々と読み解けそうだ。それにしても、マレー人を主人公に、男女のルームシェアというコメディーが成立するというのは新鮮ではないだろうか。「ここはイスラーム圏だから行動には注意しないと」というような台詞もあるのがおかしい。シェアメイトをゲイだと推測し、いい相談相手になってもらえるかも、と期待したり、「ゲイならきれい好きのはずなのに」とひとりごちたりするのはちょっとハリウッド映画の見過ぎでしょう、と言いたくなるが、それで相手に対する好感度が上がるのも、イスラーム圏の映画では珍しいのでは。
 バーナード・チョウリーの作品は『グッバイ・ボーイズ』以来。その時は群像劇で登場人物が多いので、1回では消化しきれないという印象だったが、本作は主な登場人物が絞り込まれてすっきりしている。

  • tomok - AKU DATANG ost ISTANBUL AKU DATANG

原題:Istanbul Here I Come
英題:Istanbul Aku Datang
製作年:2012
制作国:マレーシア
時間:99分
言語:マレー語、英語、トルコ語
プロデューサー:リナ・タン(Lina Tan)
監督:バーナード・チョウリー(Bernard Chauly)
脚本:ラフィダ・アブドゥラ(Rafidah Abdullah)
出演:リサ・スリハニ(Lisa Surihani)、ベト・クサイリー(Beto Kusyairy)、トモ(Tomok)
音楽:アナス・アムダン(Anas Amdan)
撮影:ハリス・フー(Haris Hue)