邱涌耀『鳥屋』(The Bird House、2007)

引き続きアテネ・フランセで邱涌耀(クー・エンヨウ)『鳥屋(The Bird House)』鑑賞。

 舞台はマラッカ、戦前に建てられた古い家(ショップハウスというのはこれか)に住む福建系の一家。シンガポールで所帯を持っている兄がふらりと帰ってみると、いつのまにやら家の前は人に貸して、自動車教習所になっていた。

 兄の帰省にはもちろん目的があり、旧家を利用してアンティークショップを開きひともうけしようという魂胆。一方、家に残っている弟は、どうせ古い家なのだからどこかに引っ越して「Bird House」にしようともくろんでいる。家を改造してアナツバメをおびき寄せ、高級食材の燕の巣を採取してもうけようというのだ。父は家については何も語らない。また、もう一人家を出た妹がいることになっているが、彼女は最後まで登場しない。

 食事の場面がやたらと多く、おかずを取ってやったりする仕草が、いかにも中華圏の映画という感じ。そういえばヤスミン・アハマドの作品では食事の場面が少なかったし、あっても会話ばかりで食物を咀嚼する場面は写されなかったように思う。

 会話は福建語と華語が半々というところ。ただ、同じマレーシアの中国語映画でも『私たちがまた恋に落ちる前に』とは全く異なり、兄弟の喋る華語はとても聞き取りづらかった。こちらの方がむしろリアルで、ジェームス・リーはやっぱりちょっと奇妙な空間を作り出そうとしているのだろう。父は福建語のみ、弟はほぼ華語、兄は父と話すときには福建語で弟に話しかけるときには華語になる。方言から共通語としての華語に移行する世代だ。おかしかったのは、弟が何度か「クソ」に相当する言葉をいうのだが、それだけ福建語で「サイ!」と吐き捨てること。多分「屎」の字に当たるのだろう。ふだんは華語でも粗口になると方言が活躍するのである。前に台湾では「蔡」さんは日本語読みすると聞こえが良くない、と聞いたことがあったが、なるほどこのことかと笑いをかみ殺す。

 結局家をどうするかという結論は示されず、最後にわかるのは兄の会社が中国に完全移転し、兄はリストラされたということのみ。どうやら夢の中と思しきラストで、はじめて亡き母親が登場する。息子は福建語で受け答えするが、この母が話しているのは何語だったのか分からない。

 錫鉱山が閉鎖されたことに言及があったが、『グッバイ・ボーイズ』でも主人公たちが鉱山を通過しており、錫産業の跡地はマラッカやイポー一帯の出身者の原風景として注目される。

 

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