兔子

 上の記事でも引いた『黒旋風』の用例だが、“兔子”という罵語が気になった。

那天汪大哥给小玉儿在戴春林买了双丝袜,小玉儿喜欢得什么似的,跑出来时,那几个相公还等在门口,妈的,还想勾搭女孩儿家,给我当兔子倒不错哩。

 女性的な男性や同性愛の男性を罵る表現だが、なぜウサギなのだろう。“兔子 男同志”で検索してこんな記事を発見。

 このサイトの説明だと次のようになる。

根据中国民间传说,兔子代表月亮,月亮属于阴性,所以有人把女性化的男同志,形容为兔子
(中国の民間伝承では、ウサギは月を表し、月は陰に属するので、女性的な男性同性愛者をウサギにたとえることがある)

 “兔子”の語源の真偽のほどはともかく、この記事では同性間の縁結びの神様としてウサギが新たに信仰を集めていることが紹介される。台湾の女性は縁結び祈願に“狐仙廟”に行くそうだ。そういえばドラマ『敗犬女王』でも、楊謹華演じる單無雙が母親にせっつかれて“狐仙廟”で道士に祈ってもらう場面があった。では同性間の恋愛は…ということでウサギを祀る廟が建てられたとのこと。
 さて、なぜ同性間の恋愛成就にウサギの神さまの廟を建てたかというと、曰く清・袁枚の文言小説『子不語』(巻十九)の胡天保という男がウサギ神になったという話に出典がある由。

  國初,御史某年少科第,巡按福建。有胡天保者愛其貌美,每升輿坐堂,必伺而睨之。巡按心以為疑,卒不解其故,胥吏亦不敢言。居無何,巡按巡他邑,胡竟偕往,陰伏廁所窺其臀。巡按愈疑,召問之。初猶不言,加以三木,乃云:「實見大人美貌,心不能忘,明知天上桂,豈為凡鳥所集,然神魂飄蕩,不覺無禮至此。」巡按大怒,斃其命於枯木之下。
  逾月,胡托夢於其里人曰:「我以非禮之心干犯貴人,死固當,然畢竟是一片愛心,一時癡想,與尋常害人者不同。冥間官吏俱笑我、揶揄我,無怒我者。今陰官封我為兔兒神,專司人間男絓男之事,可為我立廟招香火。」閩俗原為聘男子為契弟之說,聞里人述夢中語,爭醵錢立廟。果靈驗如響。凡偷期密約,有所求而不得者,咸往禱焉。

 この胡天保さん、福建の人だが、新任のお役人の美少年ぶりに魂を抜かれた挙句、よその村に視察に出た時はこっそり着いて行き、その尻を拝もうと便所を覗いてしまった。あいにく発見され、「殿の美貌が忘れがたく、身の程知らずとは知りながらも魂があくがれゆくままに、思わず知らずご無礼を致しました」と正直に白状したところ、役人は激昂し、哀れ胡天保はぶち殺されるはめに。
 のちに胡天保は村人の夢枕に立ち、「死んで当然の無礼を働いたものの、慕う心から出たもので悪意あってのことではない。冥界のお役人にはさんざんからかわれたが、叱られはしなかった。今や兔兒神に封ぜられ、人の世の男同士のたのしみを司ることとなったので、廟を建てて線香を上げてくれ」と言ったので、福建では男同士の契りを交わす風がさかんであったこととて村人は競って金を出し合って廟を建立した。霊験あらたかであったので、忍ぶ仲の恋人やかなわぬ思いに胸を焦がす者はみな願掛けに行ったそうな。
 福建では“契弟”という風習があったというのは初めて知った。それはともかく、いくら手の届かない相手に恋い焦がれても、便所を覗いたりするのは今も昔も犯罪である。