Liew Seng Tat『口袋里的花』(Flower in the Pocket、2007)

 マレーシアのLiew Seng Tat(劉城達)監督『口袋里的花(Flower in the Pocket)』(2007)(公式サイト)鑑賞。今秋のアジア・フォーカス・福岡国際映画祭では「ポケットの花」のタイトルで上映予定。監督の来日・舞台あいさつも予定されている模様。中英文字幕付きDVDは大荒電影のサイトからオンラインで購入した。

 華文小学校に通う馬利亞(林明椳)と馬利歐(黄子江)の兄弟は、マネキン工房の主人である父・阿水(ジェームス・リー/李添興)と三人暮らし。弟はマレー語の授業についてゆけず、マレー人の先生が話すことがさっぱりわからない。父は二人が寝てから帰ってきて、登校する時にはまだ寝ているので完全にすれ違いの生活だ。二人の母親についてはまったく言及されないが、父は女性を紹介すると言われてもにべもなく断っており、かつての結婚生活に深い思い入れがあるらしい。毎日マネキンにやすりをかけながら、息子たちのことは二の次で自分の殻に閉じこもっている。一方、彼の下で働くママッ(Azman Bin Md. Hasan)は気の良い楽天家で、妻が妊娠した!と無邪気に喜んでいる。妻の連れ子が5人で、今度の6人目が自分の初めての子だけど、俺のような男には子供が何人いたって大丈夫、と意気軒昂。阿水はそれを聞いて何とも微妙な表情だ。

 兄弟は自分たちの世界で楽しく遊んでいるが、ある日マレー人の少女・アユ(Amira Nasuha Binti Shahiran)と知り合う。男の子のように髪を短くしている彼女は、「アタン」と名乗っている。遊び友達になった彼らは、アユの家で昼食をよばれることに。アユはどうやら母親(Mislina Mustaffa )と祖母(Mak Inom)*1との三人暮らしらしい。「バイクを処分して何年も経つのに」なんて台詞が出てくるので、家族で唯一バイクに乗っていた父が家から何らかの理由で姿を消したことが想像される。母のいない二人の家が乱雑なのに対し、女ばかりのアユの家はきれいに片付いていて、入口の階段でちゃんと靴を脱いで揃えて上がる。食事も自分で作るインスタント麺ではなく、米飯にふわふわの卵や魚がおかずにつく。

 楽しく遊んでいたのもつかの間、兄弟は拾った子犬を教室に連れ込んだことから先生にとがめられ、保護者呼び出しの憂き目を見る。父は子犬を飼うことを許さずゴミ捨て場に捨てて来てしまうのだが、その晩兄弟の身に事件が起こる。それを契機に、父はかつての思い出に向き合い、文字通り消化すべく努力を始める。

 これまでに観た華人監督の作品には珍しく、台詞のうちマレー語が占める割合がかなり高い。しかもそれを喋るのが、ジェームス・リー演じる父親というのが意外な感じ。ジェームス・リーの作品は、室内の場面が多いせいもあり、台湾映画と言われても違和感が無いくらい地域色が薄いイメージがあったので(俳優の話す中国語もあまり方言の影響を感じさせない、比較的ニュートラルな印象)。父は従業員のママッとはマレー語、他の華人とは広東語で会話するが、息子たちには華語(普通話)で話しかけている。華人の親子で、下の世代に継承させる言語はいずれかの方言ではなく、華人間の共通語である華語になる。

 ユーモア(ウィットではなくて、本当に人間味という感じ)に富んでいるのに加え、重要な役でごく自然にマレー人が出てくるのが面白い。しかもどのキャラクターも造形が魅力的。スポットCMも何種類かあるが、アユ役の子が兄弟役の二人にマレー語をコーチするものや、監督が横についてアユの母役の女優に広東語で紹介させるものなど、ちょっと珍しい趣向だ。以下に2種類貼っておく。

 DVDには15分のメイキング(『鳥屋』の邱涌耀(Khoo Eng Yow)が編集に携わったようだ)やスチールも収録されている。

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*1:ヤスミン・アハマド『ムクシン(Mukhsin)』の最後に登場したヤスミン監督のご母堂のようだ。『ムクシン』でのクレジットは Inom Yon となっていたけれど同一人物らしい。