バーナード・チョーリー『グッバイ・ボーイズ』(Goodbye Boys、2005)

 国際交流基金映画講座のマレーシア映画特集で、バーナード・チョーリー(Bernard Chauly)『グッバイ・ボーイズ』鑑賞。かなり娯楽性が高く楽しく観られる一本。何宇恒の『霧』でぐったりした直後の上映だったので、緩急としては良かったか。

 舞台は1990年のマレーシア。ボーイスカウトの課題でイポーからスタートする100キロ歩行に挑戦する八人の少年たちの話。なんでもこれを踏破すると「キング・スカウト」なる称号がもらえるらしい。彼らはみな高校の最終学年で、一生を決する大事な試験を控えており、それで頭がいっぱいの者あり、ゴール予定日の夜に行われるプロムナイト(別に学校で開催されるイベントではなくて、生徒たちが勝手に場所を借りて開いたようだ)で憧れの彼女と踊れる、と舞い上がっている者あり。てんでばらばらな彼らの五日間の旅を描く。

 八人の共通語は英語で、歌うのもボーイスカウトで習った英語の歌。だがエスニックグループはそれぞれで、マレー系も中国系も混ざっている。みんなそれなりに仲良くしてはいるが、中国系の子たちは将来の話になるとこっそり「何がアファーマティブ・アクションだ」とこぼしたりする。みな目標は海外留学だが、NEPの続くマレーシアでは、留学の奨学金を得るのにも非ブミプトラには高いハードルが課される。中国系のアーロン(Tommy Kuan)がろうそくの明かりで必死に勉強するのも、優秀な兄弟がいるというプレッシャーのみからではあるまい。ちなみに監督自身は半分インド(パンジャブ)系、半分中国系とか。

 物語はお調子者のアリスを狂言回しに進められる。彼は女の子に人気のジンとつるんで、そのおこぼれに与るのだと開き直っている。ジン(Jay Eng)はちょっと周杰倫を思わせるタイプで、この手の顔はマレーシアでも(エスニックグループを問わず)人気があるのかとちょっとびっくり。彼と対極にあるのが四角四面で融通のきかないアイヴァン(Razif Hashim)。プロムに誘った憧れの彼女が、前にジンと付き合っていたことを気にしている。ジンはそれを知って、わざと彼女に「あんたには傷つけられたけど、でもやっぱり忘れられない」と言わせ、それをアイヴァンに聞かせる。しかし、実はジンはアイヴァンに大きな恩を受けていることに気づいていない…。

 八人については最初に紹介があるが、なかなか役名と顔を一致させられずに困った。皆が同様に将来への不安に悩んだり、家庭の問題に心を痛めたりしているのだが、不思議なくらい互いに相談しない。そんなわけで、別に絆が強まるとかいうこともなく(反対にアリスはジンにサヨナラする)友情は前面に出て来ない。そのあたりがサッパリしていて良いかもしれない。クイズ形式で八人の将来を明かしてゆくラストも楽しい。