ヤスミン・アハマド『細い目』(Sepet、2004)

 以前に英語字幕のビデオでも見たが、今回は日本語で、英語の台詞にもちゃんと字幕がついたバージョンを観られてよかった。ただ、広東語の部分などいくらか省かれていたのが気になる。

 

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 改めて気がついた点をいくつか。

 ジェイソンの家の食卓風景、何ともやかましいが、よく聞いていると広東語の会話の中に、兄の妻のシンガポール人だけは華語(標準中国語)で話しているのがわかる。この兄夫婦は続編にあたる『グブラ』では離婚しているが、この場面での何となくしっくりしない感じが伏線となっているのかもしれない。

 オーキッドがジェイソンの友人阿キョンに紹介される場面。茶餐庁のような待ち合わせ場所に彼女が足を踏み入れようとして、入り口脇で肉を切り分けているのに気づく。この場面、彼女は広東語で「哇,好好味啊!」と言っているように聞こえるのだが、字幕が無かったので定かではない。もしそうなら「いい匂い!」「おいしそう!」ということになるだろう。おそらく鶏肉だろうと思うのだが(ムスリムが豚肉を見て「おいしそう」なんて言うわけない)、画面では確認できず。しかし仕草はぎょっとしているようにも見えるので、豚肉を目にしてゲッという反応なのかも。けっこう文化的に重要なディテイルだと思うが。 そのあと真っ直ぐジェイソンたちのところに進んで行き、ためらいなく広東語で挨拶する。「あなたが阿キョンね?かっこよくないって聞いてたけど、ほんとは"靚仔"じゃないの!」よく考えてみれば、普段英語とマレー語で生活している彼女が、わざわざ広東語をつかうというのはかなりの歩み寄りだ。まあ、実は阿キョンは福建系で、広東語はあまり得意ではなかったことが後に判明するのだが。

 それにしても、前に観たときに比べてジェイソンという男のひどさに目が行った。前の彼女ときっちり別れられておらず、しかも妊娠までさせていて、オーキッドには「彼女の出産までは支えてあげなきゃいけないけど、それが済んだら必ず君のところに行くから」なんて手紙をよこす。挙句に最後の手紙に書いてあったのが「幸い彼女は子どもを諦めた」。前の彼女があまりに可哀想ではないか!オーキッドの男運の悪さ(あるいは男を見る目の無さ?)は『グブラ』でも明らかになるが、仮にジェイソンと結ばれたとしてもロクなことにならないだろう、と醒めた目で見てしまった。マレーシアの観客には、こういうストーリーが(文化的な側面はさておき)ロマンティックだと受け取られるのだろうか?

 

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