永井聡『キャラクター』(2021)

 漫画家のアシスタントとして長年働いている山城圭吾(菅田将暉)。画力は抜群だと誰もが認めるが、サスペンスホラーを支えるだけの魅力的なキャラクターが作れないのが欠点。これを最後と決めた持ち込み原稿も断られ、漫画家への道を断念して就職しようと決意する。

 アシスタント業も最後と決めてスタジオに出勤した日、漫画家から頼まれて「幸福そうな家」のスケッチに向かう。ところがなんと、絵に描いたような幸福そうな一軒家の中では、残虐な一家四人皆殺し事件が進行中だった。第一発見者となった山城は、犯人の顔をちらりと見ていたが、事情聴取には「見ていない」と答えてしまう。

 山城は自分の弱みを補うべく、現実の殺人鬼をモデルに目撃した殺人事件を漫画化する。とんとん拍子にデビューと連載が決まり、爆発的な人気を博し、高級マンションに転居し妻(高畑充希)も妊娠、万事順調に見えたが……。

 描かれた漫画のとおり、次々に一家四人を狙った惨殺事件が発生する。おまけにあの夜の殺人鬼でモロズミと名乗る青年(Fukase)まで山城の前に姿を現すようになり、奇妙な「共作関係」が成立してゆく。

 山城の視点から最初のショック・シーンまでテンポよく展開し、人の懐に入るのがうまく事情聴取に長けた刑事・清田(小栗旬)、上司の真壁(中村獅童)らによる捜査の状況と交互にサスペンスを演出して飽きさせない。

 殺人そのものより、幸福そうな四人家族ばかりを標的にした動機、フィクションとして殺人を楽しむ読者と、商業化されることで作者も作品に仕える歯車の一つとなってゆき、虚構のはずの創作物が最終的に作者に牙をむく過程が主軸。

 自分がやったと供述しながらも、動機や犯行状況についてはすべて覚えていないという辺見という老人(松田洋治)の出現で、さらに事態は混迷を深める。

 細かいところを気にせずに見ればとても面白かった。四人家族を理想とする一種のカルト的共同体で殺人事件が起こり、捜査の過程で多くの無戸籍児が保護された昔の事件が発端。現実の殺人事件と、漫画作品のそれぞれが「共作」による奇妙な関係で生まれてゆく。

 山城は犯人に襲われて右手の腱を切られるが、病室で清田の肖像を描いており、右手の力は残ったかあるいは左手でも描けたか、いずれにせよ描く能力は失われるに至らなかったことが示唆される。作者が作者として、作品を生み出す力を持ち続けている限り、真のエンディングには至らない。山城一家四人皆殺し事件が近く起こることを予感させて映画は終わる。