オリヴィア・ワイルド『ドント・ウォーリー・ダーリン』(Don't Worry Darling、2022)

 マリリン・モンローのような装いの妻を専業主婦として家に置いておくのが自慢だった時代。整然と設計され塵ひとつないヴィクトリアという企業都市は、社員とその家族のみが立ち入りを許され、指定の居住区域から出ることは許されていない。家の中も清潔に整えられ、夫の帰宅時には夕食の用意がされ、セクシーに着飾った妻が出迎えてくれる。

 アリス(フローレンス・ピュー)とジャック(ハリー・スタイルズ)の夫婦はいつまでも新婚のように情熱的なカップルで、ジャックはヴィクトリー社の若手の出世頭だ。
しかしある日、アリスは飛行機の墜落を目撃し、救援のために事故現場に急ぐが、その結果、立ち入り禁止の「本部」に足を踏み入れてしまう。気付けば家のベッドで寝ていた彼女に、夫は夢を見たのだろうという。

 さらに、以前から様子がおかしかった友人のマーガレット(キキ・レイン)が、ある日アリスの眼前で喉をかき切り、自宅の屋根から転落してしまった。助けに駆け寄ろうとするアリスを、赤い服の男たちが無理やり引き離し、マーガレットは運び去られてしまう。その後、マーガレットは治療中だと説明されるが、アリスは納得できない。
親しい友人のバニー(オリヴィア・ワイルド、監督兼出演)からも、そんなことは口にしてはならないと厳しく諭される。

 ヴィクトリア社長のフランク(クリス・パイン)が怪しいと見たアリスは、夫ジャックの昇進祝いにフランク夫婦を家に招いた際、フランクの挑発に乗り、自分たちの記憶はフランクによって書き替えられているのだと語る。フランクの妻(ジェンマ・チャン)は激怒して退席。客が帰った後、アリスは「この町を出よう」とジャックを説得するが……。

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 仕事と秘密は男たちが独占し、美しい専業主婦の妻が完璧に家事をするという往年の理想が体現されたコミュニティ。会社で開発しているというものも極秘で、妻たちにも知らされない。時々震動が走るので、地下で核実験でもしているのかと思ったら、そもそも彼らは何の研究開発もしていなかったという落ち。

 『侍女の物語』と同じ、男と女しかいない世界で、性役割が固定したディストピアもの。『アバター』と同様に、自分がヒーローになれる世界が仮構されている。ディタ・フォン・ティースのバーレスクが入ったり、一糸乱れぬレビュー映像がフラッシュバックのように挿入されたり、アリスの耳から離れない旋律が反復されたりと、編集やサウンドは凝っている。毎日何度も着替えをする女たちのレトロでカラフルなファッションは見ていて楽しい。しかし、全体の構造は非常にシンプルで、自分の目にした真実を女が口にすると「狂った」とみなされることなど、かなり類型的ではある。2022年の作品としては、もうひとひねりあってもよいような気がする。