ジェームズ・デモナコ『パージ』(The Purge、2013)

 一年に一晩だけ、すべての犯罪が〈パージ〉として合法化される近未来の米国。富裕層はセキュリティ付きの家に隠れ、貧困層が集中的にリンチの対象となる。しかし年に一度、獣性を解き放つことで、残りの364日の犯罪率は激減、失業率も一パーセントまで低下する。この設定そのものが悪趣味極まりないが、アメリカの寓話とスラッシャーを両立させようとしたところがまた悪趣味だ。製作はブラムハウス。

 

 

 ジェームズ(イーサン・ホーク)はセキュリティシステムのメーカーに勤め、近所じゅうに自社製品を売りつけたため、年度営業成績トップの座を獲得する。だがパージの夜、息子チャーリーが、助けを求めて逃げ回る黒人青年(エドウィン・ホッジ)を家にかくまったことで、一家はパージの対象としてマークされてしまう。

 生まれながらにして価値のある命と、パージの夜に殺されるために生きる命にどんな差があるのかという問いかけから、家族の命と見知らぬ青年の命とどちらを優先するかという二者択一へと発展してゆく。これは選択肢を規定することそのものが誤りで、その手には乗らないというのが正解。

 格差社会と究極の自己責任社会への強烈な諷刺のようでありながら、結局「自分の家は自分で守る」という米国の父親像をなぞって展開される。暴力表現は劇中のリアルタイムの描写より、冒頭に監視カメラの映像として次々に映し出される暴行の方がぞっとさせる。正直冒頭で先を見るのをためらった。

 仮面をつけて訪れるパージ集団の若者グループの中、一人だけ仮面を外す男(リース・ウェイクフィールド)の礼儀正しくドアホン越しに語りかける不気味さはよかった。ほかの仮面の連中は全員一家の隣人なのではないかと疑っていたが、隣人が計画的に一家をパージしに来たわけではなく、家に押し入った連中がいたから便乗しただけらしい。