ウィリアム・ブレント・ベル『エスター ファースト・キル』(Orphan: First Kill、2022)

 2009年の『エスター』の前日譚。先天性の疾患で10歳の少女の姿で成長が止まっているエスター。実際は30代で、第二次性徴も見られるが、子供服を着てしまえば10歳といって通用する。彼女は元の名前をリーナといい、最も危険な患者として精神病院に収容されている。

 前作『エスター』は養女として引き取られたエスターの正体がだんだん明らかになるサイコホラーだった。あらかじめ彼女の年齢が分かっているのに、どうやって第二作が撮れるのかと思ったら、行方不明の少女に化けてもぐり込んだ家の家族がさらに曲者で……と、半分まで来たところで急展開。

 前作に続きイザベル・ファーマンがエスター役。09年当時は11~12歳で役の外見と実年齢が合致していたが、26歳の今度はさすがに全身像は子供には見えず、後ろ姿やロングでの撮影でボディダブルを使っている。ファースト・キルという題名から分かるように、今回はかなり残酷なシーンを演じるので、中身の年齢相応のキャスティングが必要だったのだろう。

 彼女の弱点は、幼い外見のせいで「女として見られない」こと。それを突かれると屈辱と怒りのスイッチが入る。性愛から排除され、それを他人に嘲笑される苦痛を眺める観客も、性愛とは無縁の存在として彼女を見ているのだから、実は共犯なのだろう。しかし、エスターことリーナが最初からサイコパスとして描かれ、同情を寄せてはならないと釘を刺されたアート・セラピストがあっさり惨殺されてしまう。彼女があくまで「フリーク」「モンスター」だと位置づけられることで、観客は免罪されて楽しむことができる仕掛けになっている。

 

エスター ファースト・キル

エスター ファースト・キル

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エスター (字幕版)

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