オムニバス『セブン・サムシング』

 大阪アジアン映画祭5本目、引き続きシネ・ヌーヴォでタイ映画。特集「GTHの7年ちょい〜タイ映画の新たな奇跡」で、パウィーン・プーリジットパンヤー、アディソーン・トリーシリカセーム、ジラ・マリクンの3人がそれぞれ監督した三話オムニバスだ。タイトルの『セブン・サムシング』は、「G」「T」「H」を頭文字に持つ三社が合弁して04年に発足したタイの映画製作・配給会社GTHが設立「7年ちょい」を記念して製作したことにちなむ。キャッチフレーズは“Every 7 years, Love Changes”。
 第一話「14」はSNS中毒の高校生(ジラーユ・ラオーンマニー)とその彼女ミルク(スタッター・ウドムシン)の話。これは中学校の道徳とか、高校の現代社会の授業で使えそうな作品だ。何でもかんでもネットにアップしてしまう彼は、彼女が怒って口を利いてくれなくなると、謝罪の努力を一々中継し始める始末。「君のためにこの動画を作ったんだよ」とはいうものの、素敵な自分をネット空間で演出するための素材として(半ば無意識に)彼女を利用しているようだ。FacebookYouTube、WhatsApp が主なコミュニケーションツールとして使われていたが、タイでは Lineはそれほど流行っていないのだろうか。
 第二話「21/28」は落ち目の女優メム(クリス・ホーワン)が、かつて自分をスターダムに押し上げた出演作の続編が製作されると聞き、引退した相手役のジョン(サニー・スワンメーターノン)に出演を依頼しに行く。実はかつて二人は共演をきっかけに交際していたのだが、ひどい別れ方をしていた。ちょっと安吾の『二十七歳』『三十歳』を連想してしまい、元サヤに戻るのは難しいのでは…と思ったけれど、役と現実が渾然一体となるラストはロマンティックではある。
 第三話「42.195」では、夫を亡くした女性キャスター(スークワン・ブーラクン)が、年下の男の子(ニックン・ホーラウェートクン)とマラソンに挑戦することで人生を取り戻してゆく。タイ映画でも姐弟恋がロマンスとして成立するのかという驚きもさることながら、最愛の人を亡くしても、その失意の底から他の男の手を借りて立ち上がってもよいのだ、というメッセージの優しさが嬉しい。
 ところで、第三話のヒロイン、スークワン・ブーラクンは頬骨の高い、私のイメージするタイ美人そのものだったけれど、最初の二話の主演女優は韓国映画に出て来そうな感じだった。第三話の相手役も韓国のアイドルグループ2PMのメンバーだというし、韓国映画・ドラマのタイに与えた影響は相当大きいのではないだろうか。いや、元々タイには韓国ドラマ的なものを受け止める素地があったということなのか。

原題:รัก 7 ปี ดี 7 หน
英題:Seven Something
製作年:2012年
制作国:タイ
時間:153分
言語:タイ語
プロデューサー:ワンルディー・ポンシッティサック(Vanridee Pongsittisak)、チェンチョンニー・スントーンサーラトゥーン(Chenchonnanee Soonthonsaratul)、スウィモン・テーチャスピナン(Suwimol Techasupinan
監督:パウィーン・プーリジットパンヤー( Paween Purikitpanya)、アディソーン・トリーシリカセーム、(Adisorn Trisirikasem )、ジラ・マリクン(Jira Maligool
脚本:ベンジャマーポーン・サブア(Benjamaporn Srabua)、ナワポン・タムロンラッタニット(Nawapol Tharmrongrattanarit
出演:ジラーユ・ラオーンマニー(Jirayu La-ongmanee)、スタッター・ウドムシン(Suthatta Udomslip)、サニー・スワンメーターノン(Sunny Suwanmethanon)、クリス・ホーワン(Cris HorwangSirin Horwangとも)、スークワン・ブーラクン(Suquan Bulakool)、ニックン・ホーラウェートクン(Nickhun Horvejkul)、パーニサラー・ピムプル(Panissara Phimpru)、
音楽:ウィッチャヤ・ワッタナサップ(Vichaya Wattanasupt
撮影:ナルポン・チョーカナーピタック(Naruphol Chokanapitak