リー・トーンカム『あるメイドの秘密』(The Maid、2020)

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英題を同じくする作品がいくつもあるが、これはタイ映画。猿の縫いぐるみに見られている気がするとか、女の姿が見えるとかいう理由でメイドが次々に辞めて居着かない屋敷に雇われた少女ジョイ。

キム・ギヨン『下女』のリメイクと勘違いしていたが、オリジナルストーリーだった。ただ、吹き抜けの広間で下女が首を吊られるカットの挿入は『下女』(イム・サンスのリメイクの方だったか)だろうし、三部構成といいパク・チャヌク『お嬢さん』も絶対に参照していると思う。

こうした韓国のメイドものを踏まえた上で、幽霊ホラーからスラッシャーへの転換で、あっと言わせる。

死者の済度という仏教的要素が見られないのは、タイの幽霊映画では珍しいような気がした。こっそり邸内に供養した痕跡があっても良さそうだが、夫婦の生活様式は完全に洋風で、線香を上げるような信仰の空間はない。エグゼクティブ・プロデューサーとしてマレーシアの映画人の名前が列なっていて、合作映画としてはクレジットされていないが、マレーシアの資金も入っているのかもしれない。 死者の供養ではなく、主人公が泣き崩れるところで終わらせているのは、多国籍展開のため仏教色を抑える工夫と見るのは穿ちすぎだろうか。死者の写真が挟まれている本がホーソーン『緋文字』であることで、かなり早い段階で夫婦の娘の出生について暗示されるが、タイ語を解さない観客のためか、英語版が用いられている。

猿の幻影に脅かされる設定も、猿のいない欧米諸国の東洋イメージ(レ・ファニュ『緑茶』のような)ならともかく、タイでも不気味な猿のイメージが通用するのか? と考えたが、『ブラック・ミラー』の"Black Museum"からの引用かもしれない。IMDbのThongkham Films のページには"Ghost Monkey"なる企画のアナウンスがあるところからすると、スピンオフが製作されるのかも。

https://www.imdb.com/title/tt15120998/?ref_=adv_li_tt

ところで、舞台となる邸宅の庭にプルメリアと思われるキョウチクトウ科らしい植栽を発見。マレーシアではポンティアナックにつきものの木で、墓地や寺院によく植えられるらしい。庭木には好まれないようだが、タイでは関係ないのだろうか。(インドネシア映画だと豪邸の敷地内にはたいていガジュマルがあり、幽霊もその周辺によく出没する気がするが、タイではどうか)