大阪アジアン映画祭4本目はシネ・ヌーヴォでタイ映画特集の一本、『手あつく、ハグして』。2008年の旧作だ。
主人公のクワン(ギアットガモン・ラーター)は腕が三本あるばかりに、バレーボール選手として人気者だったのも高校時代までで、卒業後は人々の好奇の目にさらされ続け、何をしてもうまくゆかない。母を亡くした上に、恋人とも別れてしまい、いつも三本の腕に合せてシャツを仕立ててくれていた叔父も急死してしまう。
切除手術を受けることを決意してバンコクに向かう途中、男に襲われていた女・ナー(スバサゴーン・チャイヤモンコン)を助けたことがきっかけで共に道中を続けることになる。
三本の腕といって思い出されるのは、カレン・T・ヤマシタの『熱帯雨林の彼方へ』の登場人物。彼は乳房の三つある鳥類学者と恋に落ちるが、この映画のクワンが出会うのは、胸が大きいばかりに常に性的な視線にさらされる上、胸しか見てもらえないことを気に病む女だ。
外見に関する互いの悩みを共有するうち、次第に問題は自分の身体にあるのではなく、「特別」であることの意味をどう理解するかにあるのだと捉えられるようになる。誰かにとって「特別」な存在でありたいという気持ちを受け入れられたところで映画は終わる。
腕をめぐる病院での一連のシーンは、その気になればいくらでも猟奇的なイメージに描けそうだが、タイの恋愛ものらしい軽いタッチで表現されており、全体としては清涼感がある。
ところで、三本の腕を持つ主人公は、「呪われている」と心ない言葉を投げつけられたり、彼と手を繋いだ子供に手を洗うよう親が促したりする場面がある。昨日の『低俗喜劇』(感想)で、ダダ・チャンの手を握った娘に「汚いものに触った後は手を消毒することって言ったでしょう」と母親が消毒液をスプレーするシーンを思い出した。他人と違う形状の身体を持って生まれてくることを、「呪い」と捉える見方が今でもタイにはあるのだろうか。
原題:กอด
英題:Handle Me with Care
製作年:2008
制作国:タイ
時間:123分
言語:タイ語
プロデューサー:Jira Maligool、Yongyoot Thongkongtoon、Cherchonnee Soonthornsaratul、Chanajai Thongsaithong
監督:コンデート・チャトゥランラッサミー Kongdej Jaturanrasamee
脚本:コンデート・チャトゥランラッサミー
出演:ギアットガモン・ラーター(Kiattikamol Lata)、スバサゴーン・チャイヤモンコン(Supakson Chaimongkol)
音楽:Hualampong Riddim
撮影:Naruphol Chokanapitak
編集:Patamanadda Yukol