ウラジーミル・ソローキン『ロマン』

 

ロマン〈1〉 (文学の冒険)

ロマン〈1〉 (文学の冒険)

 
ロマン〈2〉 (文学の冒険)

ロマン〈2〉 (文学の冒険)

 

 

 読んだ後にはすっかり世界が変わってしまう、もう何を見ても前と同じには目に映らない、恐ろしい小説だった。
 酸鼻を極める描写もさながら、心を込めて築き上げられた城郭が暴走し自らを破壊してゆく過程のすさまじさに動悸が止まらない。この作品を細かく分析しようなどという気は到底起こらない、ただただ圧倒されるばかりだ。妙な喩えだが、『アバター』である意味完成された映像世界が、少しずつ剥落し色彩が薄れ、最後には8ビットのファミコンの画面になり、バグが一面を覆い尽くし、ぷつりと電源が切れるような印象。終盤の執拗な反復運動も、なんだか初期のファミコンでゲームの目的もよくわからないままレベルを上げ続ける勇者のようなイメージがあり、それが現実世界と二重写しになってゆく。最後は自分の身体が斧で引き裂かれ、引きずり出された中身がロマンと共に永遠に死んでしまったような気分になる。アポリネールの『一万一千本の鞭』以来の衝撃。
 ソローキンといえば『青い脂』でたいへん話題となったが、『ロマン』で全てが破壊し尽くされた跡地にゼロから築き上げられたのが『青い脂』なのかと考えると目眩がする。