スメタナ

 ピョートル・ワイリ&アレクサンドル・ゲニス(沼野充義北川和美・守屋愛訳)『亡命ロシア料理』(未知谷、1996)に「スメタナを勧めたな!」という章がある。ボルシチに添えられるクリームは確かに記憶にあるが、「スメタナ」という名称は初めて知った。

料理の視点から見れば、しばしば決定的なものとなるのは、料理の技術的原則か(煮る、焼く、蒸し煮する、など)、あるいは主な材料か(肉か、魚か、穀物か)、あるいは主な「潤滑剤」である。この最後の特徴によって、ヨーロッパの料理はかなりはっきりと分けられる。食べ物を柔らかくするため、辛さをやわらげるため、乾燥を防ぐため、つやをだすため――高度に発展した料理には様々な素材が使われているけれど、主なものは、一つの民族料理につき何か一つなのだ。これは、フランス人のところではバターであり、イタリア人とスペイン人のところではオリーブ・オイルであり、ドイツ人とウクライナ人のところではラード(豚の脂身)であり、ルーマニア人とモルダヴィア人のところではヒマワリ油である。ロシア料理で、こういった主たる潤滑剤となっているのは、スメタナサワークリームなのだ。(188-189頁)

 スメタナとはロシア語ではсметана、アルファベットでは smetana と表記されるそうだが、作曲家のスメタナと同じ綴りということになる。スメタナチェコ人だから、「美しい生活」が「赤い腹」になるとかいうように、偽の友達で綴りは同じでも違う意味になるのかしらん。しかし「Smetana」という姓の由来(チェコウクライナの姓らしい)を検索してみると、やはりクリームのことであるようだ。

Smetana Name Meaning
Czech and Jewish (from Ukraine): from Czech and Ukrainian smetana ‘cream’, a nickname, perhaps ironic, for a ‘delicious’ person or for someone who liked cream, or a metonymic occupational name for a trader in dairy products.

亡命ロシア料理

亡命ロシア料理