ババク・アンヴァリ『アンダー・ザ・シャドウ 影の魔物』(Under the Shadow、2016)

ペルシア語の合作ホラー。イラン・イラク戦争下でミサイル攻撃が近いと噂されるテヘラン。医師志望のヒロインは政治活動歴を問題にされ、大学への復学の道を閉ざされる。
順調に医師になっていた夫は、幼い娘がいるのに復学にこだわり続ける妻を理解できない。やがて彼も二度目の召集を受けて激戦地に赴き、妻には娘を連れて夫の実家に身を寄せるようにと勧める。しかし前回の滞在時、兄嫁に嫌味を言われたことも心にかかっており、妻はテヘランに残り続ける。
ついにミサイル攻撃が始まり、母娘の暮らす真上の部屋に着弾、住人の老人は心臓麻痺で死亡する。娘は何かがいると訴えては、大事にしていた人形が奪われたと言い張る。何日も発熱が続くうち、元から不眠症だった母も、次第に何かの気配を感じるようになり……
天井に走る亀裂、吹き込む風とジンの迷信、聞かないようにしても母親失格だと執拗に自分に告げる声、錆びついて開閉の困難なガレージの扉、それを閉められないことを暗に非難する声。母娘それぞれにしか分からない宝物を手放した先に、ようやく脱出が可能になる。
それにしても、母の視点から描かれる娘(革命後に生まれ、幼いながらに女の限界を内面化している)姿が実に憎たらしく、正視に堪えない部分がある。子供が悪魔に憑かれるホラーともまた違って、子供がかわいくないというのは根源的な恐怖になり得る。

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