レミ・ウィークス『獣の棲む家』(His House、2020)

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大勢の死者を後にして難民となった夫婦が、新たな生活を始めようと踏み出すまでをホラー仕立てで描いた不思議なタッチのインディーズ映画。Netflixオリジナル。

故国の戦火をくぐり、娘を途中で失いながら英国に亡命した夫婦。難民申請後、条件付きの滞在許可が下りて収容施設を出る。しかし役所の手配した住居の壁の中には何かが棲んでいて、夜を迎えるたびに二人は脅かされることになる。

妻の郷里には、呪術師の物を奪って新しい家を建てた男が、新居の壁に棲みついた呪術師に悩まされるという話が伝わるという。夫はたびたびフラッシュバックに襲われ、祖国の記憶をすべて焼き捨てようと試みるが、壁の中からの声はやまない。

一方で、所定の期間内は就労許可も出ず、月々支給される支援金で暮らしながら、英国の生活に融け込むことが求められる。忘却を拒む妻に対し、過剰適応しようとする夫は次第に、闇の中に仮面をつけて顔を塗った娘の姿を見るようになる。

なぜ娘は夫の前に異様な姿で現れるのか、イギリスにたどり着くまでに、この夫婦はいったい誰から何を奪ってきたのかという謎が最後に明らかになる趣向。明示的な台詞はなかったように思うが、夫婦の出身は南スーダンである由。二つの民族が殺し合ったこと、民族を示す紋様を自ら腕に刻むことで、出自を隠して逃れたことが妻の口から語られる。