バリント・レーヴェース 『森林伐採 -オリンピックのために-』(2021)

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英題は"Uprooted The Olympic Tribe"。

ドイツ制作のドキュメンタリー。森林伐採の抵抗運動はボルネオのプナン人が有名だが、ここでは東カリマンタンのバハウ人の村、ロング・イスンから伐採された木材の行方を追う。

バハウの人々は、インドネシア政府から先住民族として認められていないため、代々管理してきた土地(8万ヘクタール!)の所有権を持たず、伐採を法的に阻止するすべがない。村では輪作により、30年以上のサイクルで耕地を休ませながら農耕を行っているが、伐採業者が入ることでそれが阻害されてしまう。

伐採業者も製材業者もサステナブルのお墨付きを得たグリーン企業で、国際市場での取引が許可されている。しかしその認定基準はかなり怪しく、先住民の抗議行動が報告されているにもかかわらず通ってしまう。政治家と伐採企業、アブラヤシ農園が構造的に三位一体となっていることが指摘され、伐採地には苗木が植えられることなくアブラヤシ畑にされ、村人は農園での労働を余儀なくされてしまうという。

村から運び出された木材は、マハカム河口のサマリンダに送られ、各地に輸出される。主な輸出先はいうまでもなく日本で、この伐採業者の輸出した木材が、五輪競技場でコンクリ型枠に使われているのがスタンプから確認された。

村の活動家がサマリンダの港で、炊いた米をまきながら、「この木材を使う者には災難があるだろう」と祈っていたが、それは聞き届けられたというべきだろう。この業者は後に許可証を取り消されたそうだし、五輪後の日本はこの通りの有様だ。

最後に再び森の映像に戻り、村の男性があれこれと葉を指しながら、これは何の薬、あれは何の薬、と掌を指すように解説する。森のすべてが薬であり、彼らの暮らしもその一部である。

森の中をのそのそ歩く亀の姿が幾度か挿入され、緊張感がやや緩和される。バハウの高齢女性は銀の輪をたくさん下げて耳たぶを長く伸ばしており、スピリチュアル・リーダーと説明される女性シャーマンの姿も記録として特記しておく。

先日遺骨をダイアモンドにするという広告を見かけたのを思い出す。墓が不要で悪くないなと思う反面、死骸すら生態系に還元されないのなら、生物としての人間とはいったい何なのだろうと思う。骨壺に収まり死んでからも場所を取り続ける人間のイベントは、森の一部としての人々の営みの破壊の上に成立している。