アミール・ムハマド『Malaysian Gods』(2009)

 マレーシア選挙で野党が敗れた翌日、DVDで再見。前に観た時はよく分らなかった箇所も多かったが、今度はメモを取って調べながら観た。

 2008年、マレーシアの選挙では初めて野党が三分の一の議席を獲得した。「この日、マレーシアは目覚めた」という言葉に対し、このフィルムはこうしめくくられている。

 But even if we have waken up, this doesn't mean we should stop dreaming. And we have to keep moving.

 1998年9月、アンワル・イブラヒムが副首相の座を追われたことに端を発する政治運動の記憶をたどって、カメラはクアラルンプールの各所を回る。9月20日に1万人から10万人が参加したという大規模集会が開かれた独立広場、続くアンワルの逮捕からデモが行われた現場近くの映画館(Coliseum Cinema)、そごう、王宮、KLCC公園、チョウ・キット地区、インディアン・モスクなどなど。

 だが、カメラは当時を再現するのではなく、今そこで暮らすインド系の人々のタミル語の声を拾い上げる。マレーシアで人口の8%を占めるインド系住民は、マレー人・華人に比べ焦点を当てられることが少なかった。街頭インタビューで彼らが話すのは、仕事のことや子供の教育のこと、田舎よりクアラルンプールが娯楽が多くていいとか、妹が幽霊に取り憑かれたことなど、他愛のない世間話も多い。だがその中に、Hindraf(Hindu Rights Action Force) の話や、マレー語学校に子供を通わせたらタミル語ができなくなって子供に恨まれた話、異文化カップルの結婚、大学のクォータ制は廃止すべきだという声など、マレーシア社会の様々な側面が言葉の端々から浮かび上がってくる。

 KKLCでインタビューに応じたカップルの男性は、マレー・ムスリムと結婚するとなったら大変だけれど、チャイニーズやクリスチャンなら問題はないと言い、女性が横から「仏教とヒンドゥー教は同じだし」と口を挟む。そこで挙がった Revathi という女性のケースは、ムスリムに改宗した両親のもとに生まれ、彼女も身分証にはムスリムと記されているが、実際には祖母によってヒンドゥー教徒として育てられ、ヒンドゥー教徒の男性と結婚したというもの。だが子供が生まれてから、ムスリムとして育てることを主張した Revathi の両親が、彼女を夫から引き離し、彼女は Islamic Rehabilitation Centre に送られてしまったという。イスラームに改宗することは定められた手続きを踏めば可能だが、ムスリムの名前を捨てて法的にその身分を離脱することは認められないのだそうだ。ヤスミン・アフマドの映画『タレンタイム』で、インド系の母親が息子にムスリムと交際することを固く禁じるのは、心理的に息子が「あっちに行ってしまう」のに耐えられないというだけではなく、こうした現実的な問題が絡んでくるためでもあったろうか。この事件を報じた記事をメモしておく。

Malaysian family split by faith (Al Jazeera)
Malaysia 'convert' claims cruelty (BBC)

 9月に始まったレフォルマシ(改革)を求めるキャンペーンは、4月のアンワルの公判を経て、9月の入院、体内からヒ素が検出されたことでまた盛り上がりを見せるが、デモは放水車などによって鎮圧される。

 マハティール退任後、2004年のアンワル釈放、2008年の選挙での野党の躍進までがこのフィルムでは語られている。

 今回の選挙の不正疑惑に関しては、昨夜の抗議集会には12万人が集まったと報じられており、今後の動向が注目される。

  • 12万黑衣人挤满体育馆 508集会抗议选举不公

原題:Malaysian Gods
製作年:2009
制作国:マレーシア
時間:70分
言語:タミル語
監督:アミール・ムハマド(Amir Muhammad)
プロデューサー:アミール・ムハマド
エグゼクティブ・プロデューサー:陳翠梅(タン・チュイムイ/Tan Chui Mui)
ライン・プロデューサー:Teo Ai Sing
音楽:Couple
撮影:Shan(K. Shunmugam)
編集:M.S.Prem Nath
出演:Nalainee Cheng、Sasitharan Rajoo、Lily Tan、K. Velu、Mohd Yusof

 

 

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