ジェームス・リー『趙夫人の地獄鍋』

 アジアフォーカス・福岡国際映画祭にて。自分たちに危害を加える男(あるいはまだ加えていない男も)を次々に殺し、解体することで家族の絆を強めてゆく母と三姉妹を描いたスプラッター・ホラー。

 三姉妹の母親(パーリー・チュア)は、夫の暴力に悩まされているが、娘たちに矛先が向くことを恐れて反攻できない。しかしある日、帰宅してみると、夫が長女の詩詩(デビー・ゴー)を犯している現場に遭遇、止めに入ったところ逆に首を絞められる。ついに耐えかねた詩詩が父の背中を刺し、母と力を合わせて父を殺してしまう。さてどうしようと考える間もなく、父の借金を取り立てに男がやって来るが、この男も詩詩に手を出そうとして殺される。二つの死体が転がる中、母は一計を案じる。解体して屋台で売っているカレー煮込みに入れてしまえば良いじゃない――

 人肉のカレー煮込みは人気を博し、屋台から食堂、レストランへと大きくなった店の噂を聞きつけ、食神と呼ばれる料理番組の司会者(陳浩然)たちは店の買収を試みる。それと並行して、次女の詩雨(マンディ・チェン)と三女の詩梅(オリビア・カン)はそれぞれ男に出会い、感情を育んでゆく。

 男どもが次々に殺されてゆくのは非常に爽快だが、むしろこれは復讐に名を借りた愛なのでは、という気がした。殺害し死体を解体するという行為は、憎んでも憎みきれない相手に行うにしては肉体的に近すぎる作業だ。触るのも気持ち悪い相手なら、血の流れるような方法はとらず、毒殺してビニールシートにでもくるんで、そのままどこかで焼いてしまうのが一番よい。ペニスを切り取ったりするのも、阿部定ならともかく、本当に憎い相手に対してするものだろうか。この三姉妹は男を憎んでいるのではなく、むしろ歪んだ愛情を持っているのではないか。

 『黒夜行路』(感想)でアクションの一切無かったサニー・パンが、その埋め合わせか登場するなり派手な立ち回りを演じて、あっという間に殺されてしまうのが可笑しい。『黒夜行路』といえばジェームス・リーの華語作品にしては珍しく、自然な台詞回しだったが、『趙夫人の地獄鍋』では出演者が皆(中でもとりわけパーリー・チュアが)『私たちがまた恋に落ちる前に(念你如昔/Before We Fall in Love Again)』のように一音一音を過剰なまでにくっきりと発音しているため、どこか寓話めいたおとぎ話のような雰囲気が出ている。

 福岡で上映されたものは、サウンドが未完成のような部分があった。マレーシア国内では上映許可が下りず(検閲基準からして当然だろうという気もするが)未公開とのことだが、国外で上映しているのも福岡と同じバージョンなのだろうか?
 ところで、本家ハーマン・ヤウ人肉饅頭は恐くて未見だが、『地獄鍋』の残酷描写が「爽快」と感じられる程度の耐性なら、観ても大丈夫だろうか…?

原題:Claypot Curry Killers/瓦煲咖哩
制作年:2011
制作国:マレーシア
プロデューサー:ガヤトリ・スーリン・ビライ(Gayatri Su-lin Pilai)
監督・脚本:ジェームス・リー(李添興/James Lee)
出演:パーリー・チュア(蔡寶珠/Pearlly Chua)、デビー・ゴー(吴天瑜/Debbie Goh)、マンディ・チェン(陳詩瑩/Mandy Chen)、オリビア・カン(江郁雯/Olivia Kang)、陳浩然(Jeff Chin)、葉良財(Steve Yap)、曾玟瑋(Elvis Gan)、張順源(Ernest Chong)、Wong Wai Hoong、Goh You Ping
撮影:ヘルミ・ユソフ(Helmi Yusof)
音楽:ピート・テオ(張子夫/Pete Teo)
録音:ダスティン・リドマン・シャー・アブドゥル・ラーマン(Dustin Riduan Shah Abd Rahman)、ザイフル・アジジ(Zaiful Azizi)
編集:クリス・コー(Chris Koo)
美術:ナズルル・アスラフ・マフザン(Nazrul Asraff Mahzan)