ロブ・ジャバズ(賈宥廷)『哭悲/THE SADNESS』(2021)

台湾のゴア・フィルム。感染者を残虐行為に走らせるウイルスがある日爆発的な流行を始めた台北。残虐描写の程度というより、地下鉄内の無差別殺人という設定は台湾の観客に現実の事件を想起させるのではないかと、エンドロールに台北市政府や文化局がクレジットされているのを見て若干心配になる。

ヒロインこそいかにも最初に殺されそうな女なのに、たまたまMRTで彼女に席を譲られた女性が身代わりのように襲われるという後味の悪さ。

ウェブ上に表出する女性憎悪を露悪的に映像に落とし込んだような描写がかなり多く、肯定的であれ否定的であれ、主な登場人物の女性二人が容姿に言及された上でどちらもつけ狙われるのは勘弁してほしい。

さらに許しがたいのは、ヒロインが警備員から奪ったスマホ(待ち受けが萌え絵)で彼氏と「我愛你」とか通話する箇所。お前が携帯を必要としている時は、その警備員さんにだって携帯が必要だと分かっているのか。持ち逃げするなよ。

『一万一千本の鞭』に出て来そうな血みどろ乱交シーンは、画面の半分以上がモザイクで覆われていたが、もはや性器を隠したのか他の臓器を隠したのか分からない。

台湾映画として気づいた細部は、嗜虐趣味を満足させるために「阿魯巴」(相手を担ぎ上げて無理やり股間を柱などにこすりつける)が用いられるところ。また、華語(共通語)で話していた登場人物も、ウイルスに操られて邪悪な想像力を発揮し始めると台湾語になる。これは罵語は台湾語でないと不自然だという理由なのかもしれないが、体裁を繕う言葉が華語で、生理的欲求に基づいて発される言葉が台湾語だとすると、台湾語話者のキャラクター付けについても考えるべきかもしれない。ちなみに若い美男美女のカップルは最後まで華語。

ところで、ヒロインに地下鉄で「美人だね」「よく会うけど友達になれないかな」などと話しかける男、ベテラン俳優の王自強だが、この役の造型は日本のある作家(名前を出すのは控える)の写真とそっくりで驚いた。だが、台湾のネットでは王自強は韓國瑜と瓜二つだと評されている。