『眠りに生きる子供たち』(2019)

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2019年スウェーデンNetflixドキュメンタリー。原題は"Life Overtakes Me"。

「あきらめ症候群(Resignation Syndrome)」というのは2003年から知られるようになった病気で、身体機能に異常は見られないにもかかわらず、活動が低下し、寝てばかりいるようになり、食事の量が減り、最後には一切の飲食もせず眠り続けるようになるという。身体的には何の異常もなく、数ヶ月から数年間にわたって眠り続けるという。数か月から一年以上寝たきりの状態が続くが、スウェーデンの難民申請者、中でもバルカン半島旧ソ連南部出身、またはマイノリティの子供たちに見られる症状だという。なぜスウェーデンで特異的に発症が多く報告されるのかはまだ分かっていないというが、後にオーストラリアの難民収容施設でも症例が報告されているそうだ。難民受け入れ国から制限へと政策が転換される中、初めは詐病と誹られたり、親が毒を盛っているのだろうなどと心ない中傷にさらされたりしたという。

本国で心身のいずれか、または両方に深い傷を負った家族が、スウェーデンに亡命し生活に馴染みかけてきた頃に、難民申請の却下という衝撃にさらされる。取材された三家族はいずれもそうしたケースだ。滞在許可が下りて両親が安堵すると、子供も少しずつ快復に向かうのだそうだ。だがヤジディ教徒の一家の場合、強制送還命令が下され、不服申し立ての準備をする間に、眠り続ける妹に加え、姉までも体が動かなくなってゆく。

発症するのは子供たちで、取材に応じる両親もみな若い。亡命の経緯をそれぞれに語るが、性暴力や拷問、殺害の危機を逃れてきた家族ばかりだ。その背後には、カメラの前では語るに堪えない経験もあるのかもしれない。難民申請が却下され滞在許可が下りないというのは、本国に送還されるという恐怖やトラウマ記憶の再起だけでなく、私なら自分の生そのものを拒絶されたように感じるだろうと思う。この病気についてこれまでまったく知らなかったが、目の前に希望をちらつかされながら、それが繰り返し取り上げられるというのがどれだけ残酷なことかと思う。

Suzanne O’Sullivan"The Sleeping Beauties: And Other Stories of Mystery Illness"(2021、未邦訳)の中国語版の書評を読んで検索し、このドキュメンタリーを知った。

 

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