黄明志『カラ・キング』

 第8回大阪アジアン映画祭、梅田ブルク7でのワールドプレミア。マレーシアのNameweeこと黄明志の新作は、前作『辣死你媽2.0』(Nasi Lemak 2.0)の料理対決に続いて今度は歌合戦。父がカラオケ教室の先生で、自分がロックをやっていることから思いついた設定である由。
 ロッカーの主人公(黄明志)はメタル・ボーンというバンドのリーダー。テレビのオーディション番組に出演するが、“拖”(時間まで引っ張れ)を“脫”(脱がせろ)と勘違いした仲間にズボンを脱がされ、モロ出し男として有名になってしまう。しかし、誰も彼のロック魂を理解してくれない。肩を落としてカンポン・カラ(カラオケ村)に帰ったものの、父(吳孟達*1には心を閉ざしており、親子の対話は成立しない。父は食堂を経営しているのだが、二階に上がると息子がギターをかきむしって「吃大便!(クソ食らえ)」とシャウトしているという嫌な店だ。そこに高中風(高凌風)*2という歌謡コンテスト荒らしの歌手が踢館(道場破り)に現れる。
 “踢館”というのは、マレーシアのAstro新秀大賽の上位入賞者も参加している台湾のオーディション番組「華人星光大道」(中視)でもおなじみの、外から飛び入りの挑戦者が本来の参加者に勝負を挑む形式。この用語からも想像がつくように、序盤ではオーディション番組(選秀節目)に対する痛烈な皮肉が展開される。参加者の家族役としてエキストラ俳優を客席に配しておくとか、番組の目的は優勝すればスター歌手になれるという幻想を視聴者に抱かせることで、本当に才能ある歌手を発掘する必要などない!という番組ディレクターの発言など身も蓋もあったものではない。「優勝すれば本当に歌手になれるなら、梁靜茹はなんで台湾に行ったんだ」なんて台詞が飛び出す。「華人星光大道」で審査員を時々つとめる黃小琥*3の名が『カラ・キング』の出演者の中にあったので、まさか審査員役かとドキドキしたが、さすがにそれはなかった。
 ナシルマという料理を切り口に、マレーシアの多元文化の紹介が同時に物語の推進力となっていた前作『辣死你媽!2.0』に比べると、親子の情を見せ場に持ってきた本作はずいぶん肩の力が抜けた感じ。相変わらず「ヤメテー」「スゴイネー」などの日本語が頻出して笑いを誘う。音楽映画としては、山場で黄明志が歌う、華語で始まりサビの1コーラス目が広東語、2コーラス目が福建語という歌がよかった。サントラも発売予定だそうだ。
 ところで、下半身ネタが(出演のみの『Potong Saga』*4も含め)毎回出て来るオブセッションは、ただのネタと見ればそれまでだが、深読みすれば去勢される(作品を審査でカットされる/自分たちの権利・自由を制限される)ことと華人性と結びつけられそうだ。前作で鄭和が登場するシーンがあったのも、シンガポールの劇作家・郭寶崑の『宦官提督の末裔』(鄭和的後代/Descendants of the Eunuch Admiral)と考えあわせることができるかもしれない。

原題:冠軍歌王
英題:Kara King
製作年:2012
制作国:マレーシア・台湾
時間:95分
言語:華語、広東語、福建語
プロデューサー:フレッド・チョン
監督:黄明志(Namewee
出演:Namewee、吳孟達(ン・マンタ/Ng Mang Tat )、高凌風(フランキー・ガオ/Frankie Gao )、クリストファー・ダウンズ(Christopher Dawns)、黃小琥(タイガー・ファン/Tiger Huang)、アイリス・ウー、リボン・オーイ

*1:彼の登場シーンで会場から拍手が!

*2:彼は確か療養中では…と気になったが、撮影は昨年六月だったとのことで、入院前に撮ったようだ。

*3:英語名タイガーって言うんだ!

*4:15 Malaysiaの一つとして何宇恆(ホー・ユーハン)が監督。