サイモン・カーティス『マリリン 7日間の恋』

マリリン 7日間の恋 (字幕版)
 
マリリン・モンロー7日間の恋 (新潮文庫)

マリリン・モンロー7日間の恋 (新潮文庫)

 

 シネプレックス幕張にて。マリリン・モンローミシェル・ウィリアムズ)がローレンス・オリヴィエケネス・ブラナー)とイギリスで『王子と踊子』を撮影した際のあれこれを、サード・アシスタント・ディレクター(要するに雑用係)を務めたコリン・クラーク(エディ・レッドメイン)の視点から描いた作品。
 24歳のコリンは粘り勝ちでローレンス・オリヴィエのプロダクションに仕事を得、憧れのマリリン・モンローの撮影現場で働くことになる。常にうっとりと口が半開きになっているような彼は、現実にあんな男がいたらうっとうしいだろうが、スクリーンで見ると子犬のようでなかなかかわいい。
 オリヴィエはモンローのメソッド演技法が気に入らず、役作りに納得がゆかないとパニック状態になる彼女をもてあまし、ついには「役作りなんかいいからいつものようにとにかくセクシーにやってくれ」と暴言を吐く始末。この映画では42歳のヴィヴィアン・リージュリア・オーモンド)も皇太后役のデイムの称号を持つ老女優(ジュディ・デンチ)もモンローの若さには嫉妬しない(夫がモンローのラッシュを見る目の色に気づいたヴィヴィアンが釘をさす場面はあったが)が、30歳の彼女を相手役にすることで自分の老いがいっそう際立つことを意識したオリヴィエは煩悶する。彼が鏡の前でメイクしながらコリンに不安を吐露するシーンから、ちょっとヴィスコンティの『山猫』でバート・ランカスターが鬚を剃っている鏡の中にアラン・ドロンの若い顔が映り込む場面を思い出した。
 モンローは満身創痍といった体で、撮影所に時間通りに出て行くこともできないし、おまけに頼りの夫アーサー・ミラーも、すがられて食いつくされると恐怖を覚えたのか、新婚にもかかわらずニューヨークに帰ってしまう。極度の自信の無さと見捨てられ恐怖にとらわれている彼女は、普通の人ならとても契約を続けられる状態ではなさそうだが、コリンが自分の味方になってくれると察知し、オリヴィエについての情報を仕入れたりうまく甘えたりして、どうにか撮影を切り抜けてゆく。邦題は「7日間の恋」だけれど、恋というより防御反応のような感じ。
 映画業界で自分の身を守るため、藁をもつかむようにしてコリンにすがりついているようにも見える彼女だが、七日間で撮影とともにきっちりけりをつける潔さもあって憎めない。したたかというのとは違うけれど、ただプレッシャーに押しひしがれてゆくか弱さだけではなく、「病気」をうまく手なづけて飼い慣らしているようなモンロー像がすがすがしい。
 デイム役のジュディ・デンチが、アメリカから来た若い女優や初心な助監督にさりげない気遣いを見せるシーンがとてもよかった。

原題:My Week with Marilyn
製作年:2011
制作国:イギリス
プロデューサー:デヴィッド・パーフィット(David Parfitt)、ハーヴェイ・ワインスタイン(Harvey Weinstein)
監督:サイモン・カーティス(Simon Curtis)
脚本:エイドリアン・ホッジス(Adrian Hodges)
原作:コリン・クラーク(Colin Clark)"My Week with Marilyn" "The Prince, the Showgirl and Me"
出演:ミシェル・ウィリアムズMichelle Williams)、ケネス・ブラナー(Kenneth Branagh)、エディ・レッドメイン(Eddie Redmayne)、エマ・ワトソンEmma Watson)、ジュディ・デンチ(Judi Dench)
音楽:コンラッド・ポープ(Conrad Pope)
編集:アダム・レヒト(Adam Recht)
衣装:ジル・テイラー(Jill Taylor)
撮影:ベン・スミサード(Ben Smithard)