ワン・ビン『鉄西区 第二部・街』

鉄西区 [DVD]

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 オーディトリウム渋谷にて。
 瀋陽の工業地区、鉄西区のうち艶粉街という地域の再開発に伴う立ち退きをとらえたドキュメンタリー。古い平屋が所狭しと軒を並べ、ぬかるんだ路地を人々が行き交う1999年の冬から撮影は始まる。主に映し出されるのは十七、八歳の若者たち。賈樟柯ジャ・ジャンクー)の『青の稲妻(逍遙遊)』を想起させる、学校に行くでも働くでもなくぶらぶらしている様子だ。それでも両親と暮らしていれば衣食に困ることは無いのだろうが、親が亡くなってしまった子は18歳から自活しなければならない。とはいうものの、地域の皆が勤めている工場はとっくに斜陽で、食べてゆけるだけの働き口を見つけるのも容易では無さそうだ。「軍隊に行けば良い」という中年男も画面に登場するが、どこか出稼ぎに行くか軍隊に入るかしない限り活路は開けないのかもしれない。
 立ち退きを控えて、しかも母親が病気で床についていたり、状況からするとかなり行き詰まっているように思われるが、それでも若者たちは皆で集まってはグダグダと与太話やトランプに興じる。このグダグダが延々と続くように感じられて少々辟易したが、やがて季節がめぐり、2000年を迎えると艶粉街の空気も変わってくる。移転の具体的な話が詰まり、支給される住宅は元の家より居住面積が遙かに狭いことが判明したり、店舗つき住宅だったのが住居のみになってしまったりと様々な問題が見えてくる。それでも政府の担当者に交渉に行ったりというような場面は無く、ただ淡々と日々の生活が映されるばかり。
 やがて冬が来る頃には一世帯ずつ、トラックに家財道具を積んで新居に移って行く。新居には家族全員が住めるスペースが無く、祖母はほかの兄弟の家に同居することになったり、必ずしも納得ずくの転居ではないが、それでも日を逐うごとに通りは閑散としてゆく。新年の爆竹は前年と同様にはなやかに鳴るが、それでもどこかひっそりとした年越しだ。
 移転を拒んで残り続ける家族もいるが、電気も水も止められてしまい、ランプを吊してわずかな抵抗を試みる。こうした残った人々が、ごくわずかな水を大事に使いながら台所で料理したり、身体を拭いたりする様子が映し出されるが、それでも不思議と切羽詰まった悲壮感は無い。彼らは傍から見れば呑気に見えるほど、鷹揚に構えて鼻歌をうたいながら日々を肯うのだ。
 175分という時間は最初は長いと思ったが、この日々の暮らしを見る者に感じとらせるにはこれだけの長さが必要だったのだと見終えてから感じた。どうということもない日々の瑣末な事柄、若い人たちがたむろして与太話に興じる姿、そのグダグダこそが生活の本質というと少々牽強の気味があるが、それが全て根こそぎ奪われてしまうというのは一つの文化が消えることでもあるのかもしれない。本人たちがどう意識しているかはともかく、そのごく些細な日常の積み重ねの中で、どんな状況であれ日々の生を肯う人々の姿が妙に親しく感じられ、映画が終わる頃には住民一人一人が知り合いのような気分になっていた。2000年の時点で二十歳前くらいだと、そろそろ三十の声を聞く頃で、もう結婚して子供がいる人も多いだろうけれど、その後どうしているのか気になる。
 エンドロールの「特別感謝」には艾未未アイ・ウェイウェイ)の名前も見られた。

原題:鐵西區 第二部分:艷粉街/Tie Xi Qu: West of the Tracks(Remnants)
制作年:2003
制作国:中国・オランダ
監督:王兵ワン・ビン

  • 艷粉街的故事(艾敬)

艷粉街一條普不普通的街
記錄我童年快不快樂的生活
艷粉街一條普不普通的街
童年的往事在那裡淹沒
多少次 我彷彿又回到了艷粉街

青の稲妻 [DVD]

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