キム・ペクジュン『離ればなれの』

 大阪アジアン映画祭10本目、第七芸術劇場でインディ・フォーラム部門のキム・ペクジュン『離ればなれの』。中国朝鮮族を描いた映画はできるだけ観るようにしているのだが、何とも沈鬱な作品だった。両親と離れて暮らす姉弟という設定は張律『豆滿江』を思わせるが、こちらの舞台は韓国であるため、いっそう二人の孤立感が深くなっている。
 中国の延辺(ヨンビョン)朝鮮族自治州から韓国にやってきた姉(チョン・ダヨン)と弟だが、母の到着を毎日空港で待っている。中国の父に国際電話をかけるもつながらず、母の行方もわからない。二人の面倒を見てくれていた同胞のおばさんも、不法滞在だったのか連行されてしまう。寄る辺ない二人は、街で知り合った不良少年と交流を持つものの、決して心あたたまる物語にはならない。
 キム・ギドクの『鰐』には自動販売機を利用したおぞましい殺人の場面があるが、この映画では河原に捨てられた冷蔵庫が不吉な予感を与え続ける。姉が泥の河に一歩ずつ踏みこんでゆく場面に象徴されるように、深みに足を取られてゆくような状況がこれでもかと描かれ、観ているだけで窒息しそうだ。
 チョン・ダヨン*1自身は韓国生まれのようだが、少年が彼女のなまりを指摘する場面があるので、台詞には延辺の朝鮮語が用いられている様子。
 韓国の映画でも中国の朝鮮族を描くものが増えているように思うが、大体が家族と別れて出稼ぎに行ったあげく、犯罪に巻き込まれたり犯罪者になったり(サスペンスとして撮られたナ・ホンジンの『哀しき獣』もだ)という設定だ。実際に出稼ぎに行かざるを得ない延辺のを反映しているのだろうし、その結果、家族が崩壊したり親が子供を捨てて出奔してしまうということも少なくないのだろうが、朝鮮族を描いた作品がいつも悲劇で終わるのには少々引っかかりを感じる。現実を美化するのではなしに、社会に翻弄される個人の姿を描くにしても、せめてもう少し救いを残してくれれば、と思う。

 

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 英題:Farewell

製作年:2011
制作国:韓国
時間:93分
言語:韓国語
プロデューサー:ヤン・ミョンスク(Yang myeong-suk
監督・脚本・編集:キム・ペクジュン(Kim Baek-jun
出演:チョ・タヨン(朱多英/주다영/Joo Da-yeong)、チョン・テクヒョン(Jeong Taek-hyeon)、イ・ジュソン(Lee Ju-seung
撮影:チョン・ソンウク(Jung Seong-wook)
美術:パク・ヘレナ(Park Herena
音楽:ソンギョル(Sunkyeol
編集:ムン・サンヒョン(Moon Sang-hyeon)、アン・ヒョンゴン(Ahn Hyeon-geon)
録音:チャン・ソンファン(Jung Seong-hwan

*1:北朝鮮を舞台にした『クロッシング』にも出演していたことに気づいた。