アブドゥルモーセン・アルダバーン『マッチメーカー』(The Matchmaker、2023)

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サウジアラビアの窃視映画。妻と娘から疎外感を覚え、帰宅拒否気味のITエンジニア。勤務先の女性社員が、退職時にセクハラ上司の机に残したタブレットを覗き見、そこにあった秘密結婚の招待状をクリックする。

2013年の『少女は自転車に乗って』以来、サウジアラビア映画の知識がアップデートされていなかったので、女性がヒジャブもアバヤも着けずに出勤しているシーンにまず驚き。しかし、家族に知られずこっそり二人目の妻を迎えるという願望は今でも荒唐無稽でもなさそうだ。

虐げられた女が男たちを懲らしめる話だという枠は冒頭に提示されるが、主人公は特に支配的なタイプの男ではない。妻の仕事と家事労働についても低く見積もるようなことはしていないが、ただ、娘がうっすらと妻の方を自分より尊敬しているようなのが受け入れがたい。かといって「男の責任」といった旧来の男性像にもうまくはまれずにいる。

彼の犯す悪事といっても、隣家の夫婦の部屋を覗いたり、魅力的な女性社員とエレベーターで一緒になれば(それも遠慮して相手に勧められるまで乗り込もうとしない)後ろからちらちら盗み見したり、彼女のガラス張りのオフィスを覗いたりといういじましさ。

しかし、個人情報は完全に守られた秘密結婚ができるという招待に思わず応じ、飛行機で砂漠のリゾートに飛んでしまう。閉鎖された環境で、不思議な経験や奇妙な夢に悩まされ、ついには女性社員と再会するものの、思わず本音が出てしまい平手打ちを食らうはめに。

若干設定があやふやな憾みはあるが、日本語字幕に盛り込めなかった情報があるのかもしれない。指輪をはめられた指がしだいに壊死する去勢恐怖のイメージや、千一夜物語に出て来そうな、老人から与えられたミッションに挑むシークエンスは楽しい。画面作りがシンプルで、各カットの情報が刈り込まれているのもありがたい。


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