中村和恵編『世界中のアフリカへ行こう 〈旅する文化〉のガイドブック』

世界中のアフリカへ行こう―「旅する文化」のガイドブック

世界中のアフリカへ行こう―「旅する文化」のガイドブック

 

  中村和恵編『世界中のアフリカへ行こう 〈旅する文化〉のガイドブック』(岩波書店、2009年)。
 サハラ砂漠以南のブラック・アフリカと、南北アメリカカリブ海を含むアフリカン・ディアスポラの子孫の文化について様々な視点から紹介する一冊。出てきた地域のうち、ヨーロッパ以外のものを挙げてみると、ケニアトリニダード・ナイジェリア・ハイチ・ブラジル・キューバベナントーゴ・ジャマイカガイアナ・バルバドス・ドミニカ島・アンティグア・コンゴ南アフリカボツワナ・ブラジル・コートディヴォワール・ペルー・メキシコ・タンザニアウガンダ・ガーナ・カーボヴェルデ、……。ちょっと地図に示せと言われたら困るような地名もあり、巻頭の地図を何度も確かめることになった。巻末には参考資料が書籍・音楽・映画の三つについてリストにされているのがありがたい(もっとも、「この映画、どこで観られるの?」という問題は残るが…)。
 著者の出身国でもあるコンゴ民主共和国での現地調査に基づいて、ネオ・コロニアリズムの構造を説明するムンシ・ヴァンジラ・ロジェ「コンゴはどうして貧しいか―新植民地主義とアフリカの未来」は簡潔で明快な解説。私が義務教育を受けていた当時はまだ国名はザイールだったので、今でもコンゴ民主共和国よりザイールという名前の方がピンと来る。その国名がモブツにより採用されたものであり、モブツ政権崩壊後に再びコンゴに戻されたという経緯について、今さらながらようやく整理できた。
 面白かったのがマニオク(キャッサバ)とトウモロコシからアフリカとアメリカ大陸の関係を描いた旦敬介「アフロ・アメリカの旅―大西洋を移動したもの」。ブラック・ディアスポラと共に新大陸にアフリカ文化が運ばれた一方、反対にアメリカ大陸からアフリカへ移動したものもある、というのはあまり聞かないように思う。しかし、マニオクやトウモロコシは新大陸発見後の早い時期にアフリカにもたらされ、新たな調理法が開発され文化的意義が賦与され、それが黒人奴隷たちと共に南アメリカに帰ってきたという。
 「世界中のアフリカ」の中に、今はまだ中国は取り上げられていないが、いずれ「アフリカの中の中国」から「中国の中のアフリカ」へと〈旅する文化〉が見られるようになるかもしれない、などと思いつつ読んだ。
 なお、本文で紹介されている音楽・ダンスのうち、オンラインで見られるものについてはメモがてらNAVERまとめにクリップした(→こちら)。*1

【追記1】NAVERまとめではパッサパッサのクリップが二つ非表示にされてしまったので、こちらに貼っておく。「権利者からの要請または運営者の判断により非表示にされています」とのことだが、「露骨な性的表現」とみなされたのだろうか。

  • TRINIDAD PASSA PASSA 2 (beetham)

 このクリップは確かにダンスというより露骨に性行為を模した動作が含まれるため(ただしダンサーは全員着衣)、成人向けに指定されており、再生にはログインが要求される。

一説によると、低所得層の女性はミドルクラスが決めつける「上品」さのモラルや保守的なジェンダーイデオロギーからの自由、そして自己のセクシュアリティの解放を「語っている」のだという。類似の意見としては、これ以前のレゲエ時代で支配的だった、ラスタ・コミュニティでの地味で従属的な伝統的女性像(これはキリスト教的道徳と同類)に対する反発だというのもある。また、このグローバル資本主義でさらに暴力性を強めたマッチョ主義が支配する世界で、女性は自身のセクシュアリティを強調して男性をむしろコントロールし、政治経済的に従属的な立場から脱却し、対等性を手に入れようとしている、それがダンスホール・シーンで起きていることなのだという解釈もある。

岡崎彰「腰が語る―アフリカから世界へ、そしてアフリカへ」(130頁)
  • HOT GAL ROLL OUT vol2-1

 日本のパッサパッサ・シーンが窺える。

【追記2】2023/08/25

上の二つのビデオクリップはリンクが切れていたので削除した。

*1:あれ、NAVERまとめって前はブログに貼れたと思ったけど、サービス終わっちゃったのか。