アン・ホイ『桃さんのしあわせ』

桃さんのしあわせ スペシャル・エディション [Blu-ray]

桃さんのしあわせ スペシャル・エディション [Blu-ray]

 

 千葉劇場にてアン・ホイ(許鞍華)監督『桃さんのしあわせ』(公式サイト)。
 身寄りの無いメイドの阿桃こと鐘春桃(葉德嫻)は、映画プロデューサーのロジャー(劉德華)の家で60年間も働いている。一家はみなアメリカに移住し、香港に残るのはロジャーただ一人らしい。何くれとなく彼の身の回りの世話を焼いてやる阿桃だが、脳卒中で倒れてから自ら介護施設への入所を希望する。
 他の入所者が、誰ひとり面会に来ることなく捨てられたも同然だったり、費用の負担をめぐって子供たちが目の前で不満をぶちまけたりと、家族がいても問題ばかりなのに対し、阿桃はロジャーが実の息子のように足繁く面会に来るのでむしろ恵まれているように見える。
 とはいえ、邦題の通りに本当にあれを「しあわせ」と言っていいものか。春節にはほとんど全ての入所者が迎えに来てもらって自宅で過ごすのに対し、阿桃はアメリカのロジャーから電話を受けるのみ。自分があくまでメイドであって、ロジャーの家に世話になっていると思っている彼女は、事ごとに遠慮を繰り返し、「お金をつかわないで」と入れ歯さえ作る必要はないと言い張る。自分がわずかな蓄えから買ったのであろう装身具は、形見分けのようにして気前よくロジャーの甥の妻にくれてしまう。
 常に謙虚でわきまえすぎるほど身の程をわきまえている彼女が、遠慮を繰り返すたび、見ていて辛くなった。たまたま孤児となって、小さい頃から住み込みで働いていたというだけで、年とってもこんなに気を遣いながら暮らさねばならぬものか。もうちょっとわがままを言ってくれたらいいのに。
 ユー・リクウァイのカメラは、物陰から覗き見るような手持ちのスタイル。最近のはやりなのかこのスタイルはよく見るが、だんだん酔ってくるのでちゃんと三脚を立てて撮ってほしいものだ。この作品は『メランコリア』ほどではなかったが、やはり前半で少々酔った。
 阿桃の飼っている、耳の折れたぷくぷくした猫が破壊的なかわいさだが、あれは誰かスタッフの飼い猫だったりするのだろうか?

原題:桃姐
英題:A Simple Life
製作年:2011
制作国:香港
時間:118分
言語:広東語
プロデューサー:許鞍華(アン・ホイ/Ann Hui)、李恩霖(ロジャー・リー/Yan-lam Lee)、陳佩華(チャン・プイワー/Pui-wah Chan)
監督:許鞍華
脚本:陳淑賢(スーザン・チャン/Susan Chan)、李恩霖
出演:劉德華(アンディ・ラウ/Andy Lau)、葉德嫻(ディニー・イップ/Deannie Yip)、秦海璐(チン・ハイルー/Hailu Qin)
音楽:羅永暉 (ロウ・ウィンファイ/Wing-fai Law)
編集:鄺志良(コン・チーリョン/Chi-Leung Kwong)、韋淑芬(マンダ・ワイ/Manda Wai)
撮影:余力爲(ユー・リクウァイ/Nelson Yu Lik-wai)