イー・トンシン『プロテージ 偽りの絆』

プロテージ 偽りの絆 [DVD]

プロテージ 偽りの絆 [DVD]

 

 DVDで爾冬陞(イー・トンシン)『プロテージ 偽りの絆』(門徒)。先月観た『桃さんのしあわせ』(桃姐)(感想)に続けて劉徳華アンディ・ラウ)を観てしまった。
 こちらの劉德華の役どころは麻薬取引で力をつけた昆哥(クァン)。高純度のヘロインを密輸入して、「厨房」で混ぜ物をして摂取可能な純度に落とし、売人に流す。その過程は細分化されていて、取引に関わる誰もが全貌を知ることのないようになっている。
 彼の後継者として信頼を得ているのが吳彥祖(ダニエル・ウー)演じる阿力(ニック)。しかし彼は実は潜入捜査官で、麻薬ルートを一網打尽にする機会を窺っていた。
 ドラッグ撲滅キャンペーンの一環として作られたのか?と思うほど、メッセージは直接的。「ドラッグに手を出したら自分ではやめられなくなる」「売人は間接的な殺人者」「国際的にもヘロインは取締が厳しくなっており斜陽産業」「シンガポールではドラッグ持ち込みは死刑」……
 とはいえ、手に汗握るアクションシーンもあり(高い所が怖いので腰が抜けそうになった)、さすがに韓国バイオレンスのような目を背けたくなる場面は無いものの、ぞくぞくする場面が絶妙のタイミングで続いて飽きさせない。
 教訓臭もそれほど強くは感じないのは、昆哥が1型糖尿病で腎臓の病気にも悩まされている上、妻(アニタ・ユン)と下の娘にも持病があり、さらに家族にも仕事については隠しているという設定ゆえかもしれない。いかにもな香港マフィアという人物造形ではなく、反抗期の上の娘には手を焼いているし、風采もあがらない(とはいっても劉徳華だけれど)。自分が薬物中毒者の血を吸っているようなものだ、という認識もあって、後ろめたくはあるが引くに引けない、早いところ仕事を譲って国外に出たいというところだろうか。
 阿力の向かいに住んでいるのが張静初演じる阿芬(フェン)で、幼い娘を抱えてその日の食事にも事欠く生活をしている。薬物中毒の夫(ルイス・クー)と別れて越して来たは良いものの、夫に居所がばれてしまい、せっかく足を洗おうとしていた薬漬けの生活に引き戻される。彼女に阿力が色々と援助してやるのだけれど、薬から離れられないことを知って突き放してしまう。これはちょっと納得がゆかない。彼はいくら身分を隠しているとはいっても警察官なのだから、DV被害を受けている女性のためのシェルターを探してやるくらいのことはできるのでは。彼女が入院したがらないのは、娘と引き離されるのを嫌ってのことだと説明されているが、依存症の治療より先に夫と離れて身の安全が確保できる場所が必要だろう。母子二人で避難できるシェルターもあるだろうし、せめて相談窓口くらい紹介してあげても良いように思う。阿芬は隣人に助けを求めることができるのだから、サポートを受けて子育てしながら社会復帰する道も閉ざされてはいなかっただろうにと気になる。
 香港ノワールで暴力にさらされている女性が出てくると、たいてい主人公(男)が庇護するということになるような気がする。一人の男の良心に頼るのではなく、別の解決策が示されるようなフィルムはないものかしらん。

原題:門徒
英題:Protégé
製作年:2007
制作国:香港
時間:109分
言語:広東語・普通話タイ語
プロデューサー:陳可辛(ピーター・チャン/Peter Ho-Sun Chan)
監督:爾冬陞(イー・トンシン/Derek Yee)
脚本:爾冬陞
出演:劉德華(アンディ・ラウ/Andy Lau)、吳彥祖(ダニエル・ウー/Daniel Wu)、古天樂(ルイス・クー/Louis Koo)、袁詠儀(アニタ・ユン/Anita Yuen)、張靜初(チャン・チンチュー/Jingchu Zhang)、何美鈿(Mei-tian He)
音楽:Peter Kam
編集:鄺志良(コン・チーリョン/Chi-Leung Kwong)
撮影:姜國民(キョン・クォッマン/Kwok-Man Keung)