ハーマン・ヤウ『性工作者2 我不賣身、我賣子宮』

 DVDでハーマン・ヤウ(邱禮濤)『性工作者2 我不賣身、我賣子宮』。アジアフォーカス・福岡国際映画祭で上映された時のタイトルは『崖っぷちの女たち』。2010年の同映画祭で『性工作者十日談』(セックスワーカー)を観たが、タイトルは同じ「性工作者」でも話はそれぞれ独立している。
 舞台は2000年、辰年の香港・深水埗。セックスワーカーと大陸からの新移民の生活を描く。
 主な登場人物は、立ちんぼの黎鐘鐘(プルーデンス・ラウ)、夫の葬式のために大陸から香港にやってきた妊婦の黃蓮花(レース・ウォン)、保険外交員の劉富意(アンソニー・ウォン)、下層社会の現実を撮りたいと願う若手カメラマンの阿志(森美)の四人。
 鐘鐘と蓮花は同じ建物に住んでいるが、蓮花は鐘鐘たちを売春婦と蔑んでおり、いつも機嫌良く話しかけてくる鐘鐘にも取り合おうとしない。彼女の夫は香港人だが初婚ではなく、前の妻との間に四人子供がいる。夫が建築現場の事故で死亡、妊娠中の蓮花は上の子を連れて香港にやって来る。腹の子も含めて香港人なのだから、何とか香港の永住権を得て暮らしてゆこうという心算だ。亡くなった夫に保険を売った劉富意が支払いの手続きに来て、そのまま彼女と関わらざるを得なくなる。
 一方、薬物中毒の鐘鐘は、大陸から来た女たちが商売に参入して競争が激しくなったので焦っている。どこかに送金している上、クスリでぼろぼろになった歯を治そうと金を貯めているのだが、いったい誰に会うためなのか、周囲の誰もその理由を知らない。カメラマンの阿志は鐘鐘を取材して作品にしようと、彼女を尾行する。
 セックスワーカーが脱ぐのは下だけ、上半身は脱がないといった豆知識が出てきたり、ぎりぎりの状況の女たちを描きながらもコメディータッチで陰惨にはならない。『性工作者十日談』もそうだったが、同業の女たちが、何を助けるというのでもないけれど仲間同士さりげなく気にかけていて、決して孤立しないようになっているのも大きい。その一方で、大陸からただ一人やってきた蓮花はそこにもまじろうとせず、頼れるのは自分ひとりというかなり厳しい状況に置かれる。
 昨日の『プロテージ』(感想)のように、困った女に力を貸すような男は現れないし、そもそもここに出て来る香港男はみな他人を助けられるほどの力は無い。劉富意が妊婦に手を貸すのも、元はといえば永住権が取れれば保険を売りつけられるという打算から近づいたのが逃げられなくなったというところだ。しかし、そんな似たような男女が肩を寄せ合いながら、自分たちで暮らしてゆくラストには爽快感がある。
 ところで、大陸から保険会社にレクチャーに来る女医の役、どこかで見たことがあると思ったら、鳳凰衛視の「鏘鏘三人行」によく出て来る台湾の孟廣美だった。香港映画にも出ていたのか。

原題:性工作者2 我不賣身、我賣子宮
英題:True Women for Sale
製作年:2008
制作国:香港
時間:90分
言語:広東語
プロデューサー:伍健雄(Kin Hung Ng)
監督:邱禮濤(ハーマン・ヤウ/ Herman Yau)
脚本:邱禮濤、楊漪珊(Yee Shan Yeung)
出演:劉美君(プルーデンス・ラウ/Prudence Liew)、黃秋生(アンソニー・ウォン/Anthony Wong Chau-Sang)、黃婉佩(レース・ウォン/Race Wong)、森美(Sammy Leung)、杜汶澤(チャップマン・トー/Chapman To)、孟廣美(Jessey Meng)
音楽:麥振鴻(Chun Hung Mak)
編集:鐘偉訢(Wai Chiu Chung)
撮影:陳廣鴻(Kwong-hung Chan)