ジョン・セイルズ『カーサ・エスペランサ 赤ちゃんたちの家』

 養子縁組のためにアメリカから国境を越えてメキシコのアカプルコにやって来た6人の女たち。それぞれに子供を持つことを希求しているが、許可が下りるまでに時間がかかり、いらいらしながら待たされている。一方で、未婚のまま出産しようとする娘や、娘を手放した経験のある、ホテルで働く若い女ストリートチルドレンといったメキシコの人々の生活も描き出される。
 アメリカ女性が6人もいるので、それぞれの事情が少しずつ明らかになる前に、どれが誰だか整理するのに苦労した。もう少し絞り込んでも良かったのでは。中では、母親から虐待を受けた過去があり、虚言癖と盗癖のあるナンシー(マーシャ・ゲイ・ハーデン)のキャラクターが強烈だ。ちゃんと子育てできるのだろうかと心配になってしまうほど。だが、これまでの人生でどれだけ苦難を嘗めてきたことかと考えると、養子を迎えるのを機に新しい人生に踏み出してほしいものだと他人事ながら気になった。
 アイルランド系で夫が失業中のアイリーン(スーザン・リンチ)は食費すら削って子供を待っているが、そんな彼女にごちそうしようと他の女たちがレストランに連れてゆく。その間、ニューヨークの毒舌編集者たち2人は部屋に残っているのだが、「つきあいが悪いと思われないかしら」「いつも一緒にいる必要ないじゃない」というやりとりがあり、アメリカの女もそういうことを心配するものなのかと変に感心する。
 アイリーンは清掃にやってきたホテルスタッフ(ヴァネッサ・マルティネス)に、子供を迎えたらどんなに幸せだろうと夢の生活を語りかける。スタッフはそれに対しスペイン語で、自分にもエスメラルダという娘がいて「北」に引き取られたこと、アメリカから来る女性の中で優しそうな人を見つけては、こんな人に娘が育てられているのだと想像することを話す。スペイン語を解さないアイリーンは話の内容を理解できないながらも、最後にようやく迎えることができた娘に「エスメラルダ」と名づけることを決める。この「通じないけれど通じている」場面は出色。
 アルゼンチンのルクレシア・マルテル『頭のない女』では、主人と使用人がくっきりと人種で分かれている様子が描かれていたけれど、メキシコではそこまで露骨ではないのか、登場人物はみな白人だった。アメリカからやってくる女たちも白人ばかりだったが、これは何か理由があるのだろうか。まあ、アジア系やアフリカ系の夫婦が養子縁組を希望する場合は、なるべく自分たちと容姿の近い子供を希望してメキシコではなく別の国に行くケースが多いということかもしれないが。

原題:Casa de los Babys
英題:Casa de los Babys
製作年:2003
制作国:メキシコ・アメリ
時間:95分
言語:英語・スペイン語
製作:レモア・シヴァン(Lemore Syvan)、アレハンドロ・スプリンゲル(Alejandro Springall)
製作総指揮:キャロライン・カプラン(Caroline Kaplan)、ジョナサン・セリング(Jonathan Sehring)
脚本:ジョン・セイルズ(John Sayles)
監督:ジョン・セイルズ
出演:マギー・ギレンホール(Maggie Gyllenhaal)、ダリル・ハンナ(Daryl Hannah)、マーシャ・ゲイ・ハーデン(Marcia Gay Harden)、リリ・テイラー(Lili Taylor)、スーザン・リンチ(Susan Lynch)、メアリー・スティーンバージェン(Mary Steenburgen)、リタ・モレノ(Rita Moreno)、ヴァネッサ・マルティネス(Vanessa Martinez)
撮影:マウリチオ・ルビンシュタイン(Mauricio Rubinstein)
編集:ジョン・セイルズ
美術:フェリペ・フェルナンデス・デル・パソ(Felipe Fernández del Paso)
音楽:メイソン・ダーリング(Mason Daring)
衣装デザイン:マヤ・C・ルベオ(Mayes C. Rubeo)