イニゴ・ウェストマイヤー『ドラゴン・ガール』(龍之女、Dragon Girls、2022)

 少林寺付近に多くある全寮制の武術学校の一つ、塔溝武術学校で訓練を受ける少女たちを追うドキュメンタリー。アジアンドキュメンタリーズで配信(2024年1月31日まで)。

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 監督 Inigo Westmeier はブリュッセル出身でロシア・ドイツ・米国で学んだ後、世界各地で制作する映像作家である由。

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 学校は無試験で願書を提出すれば入学可能だが、卒業するのは難しいという。すすんで入学した生徒もいれば、親に持て余されたり、保護者が出稼ぎに行って帰らない「留守児童」の受入先にもなっているようだ。ドラマで軽功を見て、空を飛べるようになりたいという単純な気持ちで入学を志望した子供も。

 寺の中での修行の一環としての武術と、外の学校の集団生活を身につけさせて教養と人格を備えた教育のための武術は、それぞれ異なるように思われる。最後に僧侶が語る「籠の中の鳥が囚われていると思うのは外の人間の見方であり、鳥は餌をもらって楽しく囀り、内心の自由を持っているのかもしれない」という台詞は、学校生活の様子を映された後では皮肉にも響く。

 九歳の晨曦は、七歳で入学して現在は選抜クラスで特訓を受けている。ただ、武術歴のもっと長い他の生徒の間で一位を取るのは難しく、いつもよくて二位という成績。十五歳の少女は農村出身で、一歳半から祖母に預けられている。村を離れたかったわけではないが、学校に送られることになった。両親は出稼ぎに行ったまま、春節にも帰らず長く会っていないという。「中国の子供は本当に孤独、いてほしい時に親はいない」と語る。彼女は晨曦のような期待の星とは異なり、武術の才能は大体ここまでだろうとみなされているらしい。それでも一日一日を続けてゆく。

 ドロップアウトした上海の少女もいる。養女だった彼女は、自分が捨てられた時に生母が添えていた手紙を読んでから二年ほど思い悩み、しだいに問題行動が見られるようになったという。その結果、武術学校に送られたが、結局逃げ出した。背景には激しい体罰や、コーチとのメッセージ記録が問題視されたことがあったというが、父には言えずにいる。一度は学校に戻されたが、結局上海に戻り、ネイリストとして働くようになった。

 学費や卒業後の進路について言及はされない。全国大会に出場するような生徒はその道で生計が保障されるのだろうし、コーチとして武術を続けるか、軍隊に入る道もあるのかもしれない。

 台湾の仏教系慈善団体がマラウィに設立した学校に取材した『アフリカの少年ブッダ』では、中国から来たコーチの体罰に生徒たちが反発する部分も描かれていた。中国で自分が受けたような指導方法をそのまま持ち込めば、当然反発を生むだろうと納得される部分もある。

 

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