シャンサ、リシャール・コラス『午前4時、東京で会いますか? パリ・東京 往復書簡』

午前4時、東京で会いますか?―パリ・東京往復書簡 (ポプラ文庫)

午前4時、東京で会いますか?―パリ・東京往復書簡 (ポプラ文庫)

 

 北京出身、フランスに渡ってフランス語で執筆する作家と、シャネル日本法人社長の往復書簡。
 シャンサは北京で育っているが、共産党の老幹部であった祖父母が長春の旧日本軍参謀本部の屋敷に暮らしていたため、毎年のように長春で休暇を祖母と過ごしていたという。幼い彼女の遊び相手はかつてそこに暮らした関東軍の司令官の亡霊だったとか。彼女の日本との縁はフランスに行ってからも続くことになる。バルテュスの娘と友人になったことがきっかけで、22歳からの二年間、スイスのバルテュス・節子夫妻のシャレーに秘書として住み込んだのだ。
 一方のリシャール・コラスも、フランス生まれだが6歳で家族と共にモロッコに居を移し、10年後にフランスに戻り、パリ大学東洋語学部で日本語を学ぶと、卒業後には在日フランス大使館に就職してさっさと日本に飛んでしまうという経歴の持ち主。
 したがって、二人のやりとりは、互いの家族が経験してきた歴史、自分自身の歩んできた道のり、そして日本と自分との関わりを交換することになる。
 ちょっと面白かったのは、コラスがアメリカを引き合いに、今ある資本を失うことを恐れる日本とフランスの保守的な風土についてつづる箇所。

 フランスで成功すると、当然、誰かにたかり、誰かを利用し、盗み、誰かから何かを巻き上げたからだ、と思われます。ずる賢く振る舞って、誰かの背後でチャンスを握ったのだ、と。楽な生活をしているのは、努力や想像力や自己犠牲のたまものだなんて、けっして思われません。生まれたとき、みな等しいのであれば、貧しさの中でも、みなそうあるべきだ。成功とは元来、傲慢で、恥知らずで、卑猥である。このすさまじいまでの嫉妬心は社会に定着していて、後先を考えない困窮者への援助、労働軽視、破壊行為などを生み、人々の善意までもくじいてしまいます。そこで、僕たちは週三五時間労働の真綿のような心地よさにくるまるのです。飢えて、富に渇いた勤勉な国民の熱意が地球を温める中で、僕たちの国の資金は溶けていくのです。びんの中にカエルを入れて徐々に温めると熱さに気づかないように、僕たちも、気づかないうちに死んでしまうかもしれません。(339頁)

 日本でも今の生活保護をめぐる意見の数々を見ていると、逆の方向に働く「嫉妬心」があるように思われるが、誰もが低賃金で週48時間働いて当然、それをクリアできないのは努力が足りないから、と言われる世の中よりは、週35時間労働の鍋の中の蛙の方がずいぶんマシな気がする。