六六『上海、かたつむりの家』

上海、かたつむりの家

上海、かたつむりの家

 

 中国で話題になった(しかし私は見ていない)テレビドラマ『蝸居』の原作、六六『上海、かたつむりの家』(青樹明子訳、プレジデント社、2012年)。
 住宅ローン狂想曲を予想して読み始めたが、住宅購入はそもそもの発端に過ぎず、後半はやり手のビジネスマンである(らしい)中年男が妻(と娘)と愛人の間で右往左往する話に主軸が移動する。
 海萍と海藻の姉妹は仲が良く、妹は姉のためなら何でもしたいと思っている。姉の海萍はすでに結婚して子供もいるが、一家三人で暮らせるマンションを買うため、子供を実家に預けて日夜働いている。妹の海藻は婚約者と同棲中だが、ひょんなことから取引先の実力者、宋思明に気に入られ、ずるずると愛人になってしまう。
 姉が住宅購入費用を捻出するのに、自分と夫の両親から資金を借りようと算段するのはまだしも、妹と婚約者が蓄えている結婚費用を当てにするのには驚いた。そして姉思いの妹は、愛情を盾に婚約者を説得して金を出させる。婚約者は現実的で、一度貸したら今後もずっと姉夫婦に頼られることになる、と最初は断るが、結局折れてしまう。中国の場合、特に仲の良い姉妹ではなくても(よほど仲が悪ければ別だろうが)、やはりこういう場合はたとえ自分の生活を多少犠牲にすることになったとしても、資金援助をしないわけにはゆかないようだ。
 それから、事あるごとに「背景」の有無が問題になるのも中国らしい。「背景」とは親戚関係や友人関係など、有力者とのコネクションだが、それがなければ法にも守られず、それさえあれば脱法行為もどうとでも言い逃れが出来る。この一家もある強大な「背景」を手に入れるが、普段はうだつがあがらず妻に尻を叩かれてばかりいる姉の夫が、その危険性を警戒し、世話になってもなるべく距離を置こうとする。彼の直感は当たり、「背景」の力が失墜しても一家には累が及ばずに済む。
 それにしても中国の小説は、やはり道徳的にそれぞれが報いを受ける結末になるのが面白くない。
 固有名詞は簡体字がそのまま用いられている箇所が幾つかあるが、日本で通用する字体に直している箇所が大半なので、基準が気になるところ。また、「瞿」という姓に「チャイ」とルビが振られているが(202、433頁)、これは漢字が「翟」であるか、ルビが「チュイ」であるべきところの誤植?