ソフィア・コッポラ『ブリングリング』

ブリングリング (字幕版)

ブリングリング (字幕版)

 

 シネマックス千葉ニュータウン中央にてソフィア・コッポラ『ブリングリング』(公式サイト)。セレブの家に忍び込み窃盗を繰り返していたティーンエイジャーたちが実話に基づき描かれる。
 侵入から窃盗の手口があまりに単純で、ハリウッドのセレブリティーはホームセキュリティーを契約していないのかと驚く。ネットで検索するとすぐに自宅住所が明らかになるし、グーグルマップで周辺状況を調べ侵入ルートを策定、芸能ニュースをチェックして、家の主が海外ロケや遠くのパーティーに出ている時を見計らっては決行という手口だ。パリス・ヒルトンに至っては、玄関外のマットの下に合鍵を置いていたことになっていて、いくらおばかキャラとはいえソフィア・コッポラの悪意を感じる…と思ったら、これは事実そう報じられていたそうで二重に驚く。
 主人公のマーク(イズラエル・ブルサール)は「三流校」に転校してくるが、廊下ですれ違いざまに「Loser!」と吐き捨てられたりするような、モラルも何もない雰囲気の学校だ。そこで「きもっ」とか言われているうち、なぜかレベッカ(ケイティー・チャン)というアジア系の女の子が話しかけてくれて仲良くなる。彼女はクスリで前の学校を退学になったといい、マークを連れてハリウッドのセレブが来るようなクラブに出入りする。そして一緒に遊ぶようになったレベッカの友人たちも、あちこちのパーティーで知り合った有名人にお持ち帰りされるのが最大の楽しみという具合。そんな一筋縄ではゆかない女の子たちが、さえない高校生男子を仲間に引き入れるとしたら、何か魂胆がありそうだが、マークはレベッカが初めてできた親友だと思っている。
 彼らはいつでも携帯を手放さず、写真を撮ってはFacebookにアップする。他人をどこまでも意識していると同時に、一緒に写った写真を人の目につくようにすることで互いの関係性を確認する。クラブで窃盗自慢をしてしまうところも、自分たちの狭い世界がもっと広い社会につながっているという点にあまりに無自覚だし、逆に事件が露見するとそれを利用して知名度を上げ、有名人の仲間入りをしようとするところは、社会は自分たちの世界がそのまま拡大したものと認識しているかのようだ。
 ソフィア・コッポラの映画だから当然この作品でも女の子たちが恐ろしくかわいらしく撮られている。特に忍び込んだ邸宅で、香水瓶を手に取り、鏡に向かって首筋に吹きつけてみるケイティー・チャンの姿はため息が出るほど美しい。
 ただ、盗品に身を包んだ少女たちがしっかり決まって見えてしまうところ(何といってもエマ・ワトソンだから)は、もう少し洗練度を落としてもよかったのではないか。セレブとうたわれるスター達も、実はこのティーンエイジャーと大差ないという諷刺であるなら、で、コッポラさん、あなたは「セレブ」じゃないんですか? というところに返ってきてしまいそうだ。
 エマ・ワトソンといえば、最後のシーンでは一生懸命おバカな喋り方をしてみせているようなわざとらしさがある。「私は本当はこんなバカじゃないけれど、バカの役を演じているんです」という風に見えてしまったのは穿ちすぎか。

原題:The Bling Ring
製作年:2013
制作国:アメリカ・フランス・イギリス・日本・ドイツ
時間:90分
言語:英語
監督・脚本:ソフィア・コッポラSofia Coppola
製作: ソフィア・コッポラロマン・コッポラ
Roman Coppola
制作総指揮:フランシス・フォード・コッポラ(Francis Ford Coppola)
原作:ナンシー・ジョー・セールズ(Nancy Jo Sales "The Suspect Wore Louboutins"(ヴァニティー・フェア掲載))
出演:ケイティ・チャン(Katie Chang)、イズラエル・ブルサール(Israel Broussard)、エマ・ワトソンEmma Watson)、クレア・ジュリアン(Claire Julien)、タイッサ・ファーミガ(Taissa Farmiga)、レスリー・マンLeslie Mann
撮影:ハリス・サビデス(Harris Savides )、クリストファー・ブローベルト(Christopher Blauvelt
編集:サラ・フラック(Sarah Flack)
音楽監督:ダニエル・ロパティン(Daniel Lopatin )、ブライアン・レイツェル(Brian Reitzell
美術:アン・ロス(Anne Ross)
衣裳:ステイシー・バタット(Stacey Battat)