キース・トーマス『ザ・ヴィジル ~夜伽~』(The Vigil、2019)

https://www.netflix.com/title/81180828

ユダヤ教正統派から離脱した青年ヤコブは、死者の傍らで通夜をするShomerの役をアルバイトとして引き受けることになるが、その家では死者に取り憑いていた悪魔が次々に恐ろしい幻影を見せる。

死者はホロコーストのサバイバー。戦後ドイツから渡米し結婚したが、子や孫とは疎遠で、同居するのは認知症の妻のみだという。ヤコブは冒頭で錠剤を服用しており、しばらく前に入院していたらしい。彼は正統派を離脱する前、幼い弟と歩いていたところをユダヤ人に対する憎悪犯罪の標的にされていた。

弟に見せた手品 magic が呼び水になり、やがてユダヤ教の悪魔Mazzik = Mazzikimが姿を現す。この「悪魔」祓いを大枠として、ホラー映画の形式をとってはいるが、忘れようとしても忘れられない記憶のフラッシュバック、それに伴うパニック発作が描かれることには注意が必要かもしれない。

もちろんたった一夜で悪魔の存在を消し去ることはできず、死者の魂を解放した悪魔は、影となってヤコブを追い続けることが示唆される。ただ、悪魔に操られて閉じこもるか、自分を狙う影を感じつつ外に踏み出すかは、ヤコブには選ぶことができる。

台詞は英語に加え、イディッシュ語も。