トム・ティクヴァ/ウォシャウスキー姉弟『クラウド アトラス』

 上海・17.5影城(閘北店)で『クラウド アトラス(雲圖)』(日本公式サイト)。60元のところ、この日は半額で30元で見られた。
 ペ・ドゥナが出ている、という以外に何も知識を入れずに観に行ったので、最初は相互のエピソードの関連が全くつかめなかった。老人によって語られる創世神話といった体で始まるが、六つのディストピアの物語が同時に展開する。誰がどの物語の登場人物か把握するのにしばらく時間がかかった。特に1849年の船旅と1931年の作曲家の話は衣装がよく似ている上、船旅の日記が作曲家の部屋に置かれていたりするので、つながっているのかと途中まで勘違いしていた。
 しかし、少しずつ互いの関係が解きほぐされ、抑圧され自由を奪われた者たちが自由を勝ち取ろうとするというテーマが貫かれていることが見えてくる。
 面白かったのは2012年のイギリスが舞台の、姥捨て山さながらに養老院に送られ、家族から厄介払いされた老人たちが脱走を企てる物語。しばらく脅迫者から逃れるために用意されたホテルにチェックインしたら、そこが実は…という仕掛けは不気味だが、喜劇仕立てで六つの物語の中のスパイスとなっている。ジム・スタージェス演じるチンピラがなまりの強い英語を話すので、最初は移民という設定かと思ったが、スコットランド人だった。スコットランド人の英語はそういえばアメリカのドラマでもネタとして出て来て耳にしたことがあった。これが伏線となり、スコットランド人の愛国心に火が着いて爽快なクライマックスを迎える。
 ペ・ドゥナ周迅が登場するのは2144年のエピソード。クローン人間である彼女らは、起きて身支度を済ませると奴隷のように労働し、一日の終わりに高栄養価の飲料を与えられ眠りにつく。クローン人間というとカズオ・イシグロの『わたしを離さないで』を連想するが、ペ・ドゥナたちは別の形式で“complete”することが運命づけられている。彼女の台詞に「死はドアのようなもの」とあったが、複数のエピソードの登場人物を同じ俳優が演じているため、一つの扉をくぐって次の扉を開き、輪廻を繰り返しているようにも受け取れる。
 エンドクレジットで誰が何役演じていたか種明かしされるのだが、特殊メイク(CGで処理もしているのだろうが)で人種や性別を越えて配役されているため、全く同一人物だと気づかなかった例がいくつもあった。ところで、中国の映画館では、白人に扮した(髪と瞳の色を変えて肌にそばかすを入れるとそれらしく見えるのにびっくり)周迅が登場するたびに「また周迅だ!」と笑いが起こっていた。
 日本公開版は172分あるようだが、中国版は134分とかなりカットされている。一度観ただけではよくわからなかった箇所もあるし、カットされた部分が気になるので日本公開されたらまた観に行かなければ。

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

 

原題:Cloud Atlas
製作年:2012
制作国:ドイツ、アメリカ、香港、シンガポール
時間:172分(中国版134分)
言語:英語
制作総指揮:フィリップ・リー( Philip Lee )、ウーヴェ・ショット( Uwe Schott
プロデューサー:グラント・ヒルGrant Hill )、ステファン・アーント( Stefan Arndt )、トム・ティクヴァTom Tykwer )、ラナ・ウォシャウスキーLana Wachowski )、アンディ・ウォシャウスキーAndy Wachowski
監督:トム・ティクヴァ、ラナ・ウォシャウスキー、アンディ・ウォシャウスキー
原作: デイヴィッド・ミッチェルDavid Mitchell )『クラウド・アトラス
脚本:トム・ティクヴァ、ラナ・ウォシャウスキー、アンディ・ウォシャウスキー
出演:トム・ハンクスTom Hanks)、ハル・ベリーHalle Berry )、ジム・ブロードベントJim Broadbent )、ヒューゴ・ウィーヴィングHugo Weaving )、ジム・スタージェスJim Sturgess )、ペ・ドゥナDoona Bae )、ベン・ウィショーBen Whishaw )、ジェームズ・ダーシーJames D'Arcy )、周迅ジョウ・シュンXun Zhou )、キース・デイヴィッド( Keith David )、デイヴィッド・ギヤスィ( David Gyasi )、スーザン・サランドンSusan Sarandon )、ヒュー・グラントHugh Grant
編集:アレクサンダー・バーナー( Alexander Berner
音楽:トム・ティクヴァ、ジョニー・クリメック( Johnny Klimek )、ラインホルト・ハイル( Reinhold Heil
撮影:ジョン・トールJohn Toll )、フランク・グリーベ( Frank Griebe