アゲインスト・アゲイン・トゥループ『アメリカン・ドリーム・ファクトリー』

 フェスティバルトーキョー公募プログラム、台湾のAgainst Again Troupe(再拒劇團)(公式ブログ)《美國夢工廠》(American Dream Factory)(於池袋シアターグリーンBOX in BOX THEATER)(F/Tサイト)。演出は黃思農(ホアン・スーノン/Szenung Huang)。
 12のチャプターから成り、資本主義工業化社会で八〇年代生まれの「イチゴ族」(草莓族)が現実に打ちひしがれてゆくさまを、アメリカの消費アイコンをちりばめて描いた作品のように受け取った。さも価値があるかのように包装されて与えられた夢は、一皮剥けば暗い失望しか残らない。
 ドナルド・マクドナルドがコスチュームを着込んで笑顔の練習をし、そうあるべき brand new day へと玄関を出て行くが、帰宅後には持ち帰ったハンバーガーを口に入れては吐き口に入れては吐きを繰り返し、悪夢にうなされるという二つのチャプターは特に批判性が強かったように思う。
 面白かったのはスーパーで「アメリカン・ドリーム・コンドーム」の実演販売をするデモンストレーターのチャプター。ハイテンションで商品の紹介を繰り返す彼女に「公衆の面前では不適切」とクレームがつくが、実はその客が「こんな仕事を好きでしているわけではないでしょう、ぜひ今度うちの教会のイベントに」とチラシを渡そうとする。そこに女性客が現れて勧誘者を撃退、「さっきから見てたけどあなたはよくやったわ」とデモンストレーターを抱きしめて立ち去る。コンドームをふくらませた風船につかまって飛んでゆく結末は、暗いパートの多い舞台で救いとユーモアがあった。
 一方、留学先で妊娠した少女が、営業用の笑いを浮かべてじっと立つドナルドの前に「Abuse Me」と書いた札を突きつける場面は端的に痛い。自分の痛みを他者にむき出しに突きつけるところに追い込まれた少女の切迫性によるものというより、着ぐるみの中で役を演じていたのに、役を越えて生身の自分が応答せざるを得なくなるドナルドの困惑、そして結局役の範疇に留まる応答に逃げ込むさまが、突き刺されるような痛みをもたらす。
 なお、数日前に『臺灣軍旅文選』を読んだばかりだったので、兵役のシーンが出てきた偶然に驚き。
 仮面をつけての演技も多かったので何人で演じていたのかよく分からなかったが、カーテンコールで登場したのは男女各二人のたった四人だった。
 台詞のない部分も多く、台湾社会について理解が不十分なせいか(恐らく台湾に限らず世界中の都市に普遍的な現象をテーマにしているのだとは思うが)、何のことだかぴんと来ない箇所もあったのでポストパフォーマンストークのある回を観るべきだったかもしれない。