李纓『靖国 YASUKUNI』

靖国 YASUKUNI [DVD]

靖国 YASUKUNI [DVD]

 

 DVDで李纓監督のドキュメンタリー、『靖国 YASUKUNI』。
 刀匠とのインタビューでは、監督の日本語がつたないせいで会話がかみ合っていない、という批評を目にしたので先入観があったが、観てみたところ私は言葉の問題とは感じなかった。監督の日本語にまったく問題はなく、面と向かって話していたら100%理解できるものだったと思う。もっとも、私は日頃の環境から言って中国語話者の日本語に慣れているためにこう感じるので、日本語母語話者以外と日本語を話す機会のあまり無い人は、多少。
 刀匠も九十歳とのことで、矍鑠としてはいても、慣れない相手とは話が通じにくい部分もある程度あったとは思うが、それよりむしろ、相手が若い中国人ということで構えている面があるように感じられた。これまでの人生経験も全く異なる上、共有される前提があまりに少ないため、当時の靖国神社について聞かれても説明のしようがないという印象。「靖国に対する思い」なんてストレートに訊ねられても、苦笑して黙り込むかはぐらかすしかなかったのではないかという感じを受けた。刀匠は逆に監督に「小泉首相靖国参拝についてどう思うか」と逆問い返すが、監督は答えを返すことを避けている。というより、ためらっている間に刀匠が自分で話を引き取り、監督個人ではなく、「中国や韓国の人」は反対しているけれど、と対象を広げてうまく話を出口に導いたというところだろうか。刀匠も監督が面と向かって答えにくいだろうことは知っていてわざと話を振ったのだろう。お互いに思うところはあっても、今この瞬間、この相手を前に、カメラで切り取られる片言隻句で意が尽くせることではないだろう、とほのめかしたのではなかったか。インタビュアーが日本人だったら、また違った回答が引きだされたかもしれないが、それでは面白くない。この二人の間で、話題に為し得ないことがある(たとえそれを聞き出すための取材だったとしても)というのが記録された瞬間として、かえって貴重なシーンとなったと思う。
 とはいうものの、「靖国刀」というものは私はこの映画で初めて耳にしたので、それを当時どんな風に鍛えていたのか作業場の様子なども聞いてみたかった。どんな経緯で刀工になったのかといった個人的なことでも良いし、八千振り以上も鍛えられたという「靖国刀」は今では何本くらい所在が確認されているのかとか、もう少し色々聞き出して欲しかったという憾みが残る。
 この映画をめぐる監督の書籍も刊行されているので、取材時の状況などは追ってそちらを読んでみたい。
 しかし、八月十五日の靖国神社というのは、参拝客よりカメラマンの方が多いのではなかろうか。もっとも、号令をかけて拝礼する者ばかりではなく、静かに参拝して帰る人もたくさんいるのだとは思うけれど。

原題:靖国 YASUKUNI
製作年:2007
制作国:日本・中国
監督:李纓(リー・イン/Li Ying)
出演:刈谷直治、菅原龍憲、高金素梅
撮影:堀田泰寛

靖国 YASUKUNI

靖国 YASUKUNI