スティーヴン・スピルバーグ『ジョーズ』(Jaws、1975)

 サメ映画はやはりここからだろうと履修にかかる。スピルバーグ作品も初めてのような。巨大ホオジロザメとの格闘より、サメによる死者が出ているのに、観光収入のために海水浴場の閉鎖が許可されないという危機管理の甘さが恐怖。

 サメ退治の大半は、変人の船長クイントはじめ三人男が漁船の上でジタバタするだけなので、「桶の中なる三人は/いかなるお人かごぞんじか/パン屋に肉屋、ろうそく屋/追い出せ白波三人男」が浮かんできてしまった。

 しかし三人がキャビンで酔っ払って歌うかなり長いシーンから予想外の展開に。クイントはなんと太平洋戦争末期、広島に投下された原爆を輸送する軍艦インディアナポリスの乗組員だった。日本軍の魚雷によって沈没してから、サメの襲撃に耐えて生き延びたという設定。極秘任務だったのでSOSを出せなかったという船長が、今度はいよいよ沈没というところでメイデイを伝えようとする無線機を叩き壊す。結果、太平洋戦争の記憶はサメに食いちぎられて海底に消える。

 サメのご本尊が飛び出すジャンプスケアは使われているものの、アクションシーンも今の映画に比べるとカット割りが少なく、映画文法が思ったより古典的に感じられたが、70年代の娯楽映画はこんな感じだったか?